拾壱


「お喋りもここまでだ。・・・行くぞ!」
上空から急降下してくる夜狩を白迅がさっと避ける。
さらに舞い上がり上から鋭い刃のような羽根を放ってくるが、白迅はそれをひらりひらりとかわした。
「・・・神界一素早い僕に、そんななまっちょろい攻撃が当たるとでも思ってんの?馬鹿にしすぎだよ〜夜狩」
「ちょろちょろしやがって・・・!!」
「しんかい?・・・何のことだ・・・」
小太郎は二人の会話に耳を澄ましながら、思考を巡らせた。
分からない事はまだまだあった。
夜狩の、『また繰り返すのか』という言葉。似た様な事は日和も言っていた。『繰り返したくないのでしょう』と。
一体、過去に何があったのか。小太郎がそんなことを考えていると、すぐ近くを夜狩の放った光球がかすめた。
「・・・・・・こらあっ!!何やってるんだよ白迅!!夜狩!!危ないだろー!!木が燃える!!」
急に外野から声がかかったため、二人はぎくりと動きを止めた。
嵐のように吹き荒れていた風も、ぴたりと止んだ。
「第一!!こんな狭いところで戦うな、暴れるな!!光の球だなんて言っても、結局は熱の塊なんだからな!!
火事になったらどうする気なんだよ!!」
「ご、ごめん・・・小太郎」
「何で俺まで怒られなきゃなんねえんだ・・・」
しゅんとする白迅に対して、まったく悪びれない夜狩に、一般町民の思考を持つ小太郎は黙っていなかった。
「お前、自分がどれだけ悪いことをしたか、わかってないな!!佐藤さんは毎日ここにお参りに来て、
しかも秋には落ち葉掃きのボランティアまでしてるんだぞ!!」
一気に言って、それからまたすうっと思い切り息を吸い込んで、びしっと夜狩を指差し、言った。
「そんな信心深い人の生きがいの神社を奪う気か、お前はっ!!」
「・・・悪かったよ・・・。てか、ここは俺の家でもあるんだぞ・・・?忘れてねえか?」
指をびしいっ!と指して説教する小太郎に、ついに夜狩も折れた。
「す、すごい、小太郎。あの夜狩に謝らせるなんて・・・」
町民魂、ここに極まれり。
これで消防署と警察と宮司さんと佐藤さんに迷惑がかかるのを防いだと、小太郎は安堵した。
「ふう。よかったよかった。・・・で、なんで戦っちゃってたんだっけ?」
怒りに我を忘れ、原因まで忘れてしまったらしい。白迅はため息をついて、小太郎に言った。
「・・・あのね、夜狩が協力してくれないから、力ずくでも協力してもらおうと思ったんだよ」
あ、と今気付いたという顔で、小太郎が夜狩を振り返った。
「・・・・・・・拍子抜けだ。俺はもう事を構える気はねえ」
「よかった」
まだやる気なのだろうかとはらはらした小太郎に、夜狩が頭を抱えて戦う気はないと答えたため、
小太郎はほっと息をついた。
「で、どうしようか〜、夜狩。キミはもうやる気はないみたいだし」
白迅が言うと、夜狩は憮然とした表情で小太郎に歩み寄った。
「・・・じっとしてろ」
「?」
言われたとおり、小太郎がびしっと直立していると、夜狩は指先で円を描いた。
赤い光のその中に、紋様が描かれる。
契約印。
夜狩が追い払うように手を動かすと、契約印はすっと小太郎の体に吸い込まれるように消えた。
「・・・あ、ありがとう」
「・・・・・・」
納得いかないような表情で、夜狩は背を向けた。
「その代わり、夜だけだからな。用があるときは陽が落ちたら呼べ」
それだけ言うと、夜狩はすっと姿を消した。どうやら、これ以上話す気はないらしい。
「よかったね、小太!!夜狩は性格悪いけど、戦うのは得意だから!!じゃんじゃん呼んでこき使っちゃえ!!」
「・・・全く、とんだ荒神と会わせてくれたもんだよな、お前」
小太郎がため息をつくが、白迅はにこにこと笑顔を崩さない。
「いや、アレは予想外だけど〜。でも、小太が夜狩を説得したようなもんじゃないか〜。いや、力を示した・・・のかもね?」
「・・・・・・・・・嬉しくないっ!!」
もうすっかり夕焼けの赤さは姿を消し、星が瞬く空に小太郎は叫んだ。