拾弐


「さて、今後のことを話そうか、小太郎」
「何のこと?」
こんなに遅くなった理由を聞かれ、何とか清江をごまかしはぐらかしてやり過ごした後、
小太郎と白迅は部屋に入って顔を突き合わせていた。
「だから、今後も味方を増やした方がいいでしょ?でも、僕の知り合いは近くにいない感じなんだよね〜」
「・・・だから?」
怪訝そうな顔をする小太郎に、白迅は人差し指をぴんと立てていった。
「明日からも、仲間を探しに出かけよう!ね、そうしよう小太郎!!」
「お前なー!!僕、今日みたいなのはごめんだよ!!もうへとへとなんだから!!」
強風に飛ばされぬようぎゅっと御神木の幹を掴んだり、足を突っ張ったり。
何より、風の中に立っているだけで体力は消耗するものなのだ。
小太郎はため息をついた。
「だ、大丈夫だよ!!そんなに危険なヒトばかりじゃない・・・はず」
「はず・・・って。何なんだ、神様ってそんな危険なヤツばっかりなのか!?」
「だろうな」
窓の方で、3人目の声がした。
「・・・夜狩!!いつの間に来たんだい」
いつの間にか開いていた窓の外に、夜狩がいた。
「さっきだ。お前の気を辿らせてもらった」
「・・・僕?」
小太郎がきょとんとすると、夜狩は頷いた。
「ま、まあ折角来たんだし、入ってよ」
「ああ、そうだな」
窓から人、いや神を招き入れることになるとは小太郎も思っていなかったが、とりあえず入るよう勧めると、
夜狩は素直に応じた。
「夜狩、おせんべい食べる〜?」
「お前じゃあるまいし、誰がそんなもん食うかよ」
「なんだよっ、おいしいのに〜!!」
やはり、白迅とは仲が悪いらしい。小太郎が苦笑して、とりあえず麦茶を出した。
「・・・で、さっきの続き。そんなに、神様って危険な人が多いの?」
「ああ。俺なんかは話が通じるほうだぜ。中には言葉も通じない奴もうじゃうじゃいやがるからな。
人間を困らせるのを生きがいにしている奴もいる」
「うわあ・・・」
胡坐をかいて小太郎の横に座った夜狩がそう言うと、小太郎が顔をしかめた。
「だから、そのためにキミに協力してもらったんじゃないか。いざとなったら、キミが戦うの」
「あ?俺ばっかりか?・・・当然、お前も働くんだろ。白迅」
「ん〜、僕は、ほら。小太郎を逃がす役ってことで〜」
へらっと笑った白迅に、夜狩が不機嫌な顔になる。
「何言ってやがる、お前がいち・・・」
「あ〜っと!!えーと、夜狩、それはまずい。うん。僕の今後に大いに影響する」
「?」
また、二人にしか分からない会話をされて、小太郎が分からないという顔で二人を交互に見る。
「ほら、こいつだって知りたがってるぞ。なあ、小太郎」
「え、あ、僕は・・・」
「何言ってるんだよ!!小太は事情を分かってくれてるの!!僕が話せないって言ったら、聞かないでくれるもん!」
「あーもう!!二人とも、落ち着きなよ!!」
大人気ない二人の間に立って、小太郎が声を張り上げると、1階から声がかかった。
「小太郎、誰かお友達来てるの?」
「あ、母さん!!うん、そうだけど大丈夫!!・・・えーと、麦茶まだある?」
あるわよ、と声がして清江が台所に行った気配がした。
小太郎はふう、と息をついて、麦茶を取りに1階へ降りていった。
残された二人は顔を見合わせる。
「・・・キミが窓から入るから」
「・・・俺のせいかよ?」
夜狩は不意に真剣な顔で言った。
「お前が一番力を蓄えてるくせに、戦わないのか」
「・・・キミだって知ってるでしょ。僕が本気で力を使うときは・・・」
「へっ、まあそうだったな。あれをあいつに見られたくないってか。お前はあくまでウサギだもんな」
目の前に置かれた麦茶を飲み干して、夜狩は笑った。
「・・・・・・・・・」
白迅は一人、複雑な顔をしてせんべいを齧った。

「・・・それじゃあ、俺は帰るからな」
「あ、夜狩ちょっと待って!!」
帰る、と言って窓をがらっと開けた夜狩を、小太郎が呼び止めた。
「本当に・・・協力してくれる?ほら、僕らが嫌がる夜狩を無理矢理協力させたような感じだから・・・」
「・・・がきんちょが変なところに気を遣うんじゃねえよ」
心配そうに夜狩を見上げる小太郎に、夜狩はため息をついてそう言った。小太郎の髪をぐしゃぐしゃとかき回す。
「必要なら呼べよ、遠慮なく暴れてやる。ただ、陽が落ちた後限定だからな、それは忘れんなよ。・・・じゃあな」
今度こそ夜の闇に姿を消した夜狩を見送って、小太郎は窓を閉めた。
「・・・心配要らないよ。あれでいてアイツ、ああやってこの町の夜を守ってるんだから」
「・・・うん」
月に照らされた一羽の梟を見つけて、小太郎はにこりと笑った。