拾伍


「い、いってきまーす!!」
「行ってらっしゃーい」
白迅と清江に見送られ、今日も慌しく家を出る。
平日は小太郎が帰ってくる頃には夜狩の時間になってしまうため、
今日白迅が天神神社に出向いて日和の札をもらってくると言っていた。
身を守るものがないと、人間不安になるもので。
「・・・大丈夫かな。呼べば来てくれるとは言っても・・・」
もう3柱の神を味方につけた小太郎も、その例外では無い。
一度闇に飲み込まれかけた、白迅に言わせると『ぱっくりやられかけた』ということになるが、
その経験をした小太郎は学校に巣食う闇に怯えていた。
「いや、早く帰れば大丈夫だよ。あの時は委員会の仕事があったから!!」
気合を入れて、歩調を速める。
その時。
「え?」
声が聞こえたような気がして、小太郎は立ち止まりきょろきょろと辺りを見回した。
「・・・けて」
もう一度。声が確かにした。
「だ、誰?」
その問いかけに返事は返らない。代わりに聞こえたのは、一言。
「助けて・・・!」
確かに助けを求める声だった。

「・・・って、女の人の声。聞かなかった?ひろ」
「俺ぇ〜?俺は聞いてねえよ。だってよ、今日も遅刻しそうで走ってたんだからさ。第一、
あんな人気のない時間に歩いてんのなんか、お前だけだって」
「いいだろ別に。・・・ってことは、聞いたのは僕だけ?」
「そりゃあなあ。しかし、女のコの助けてーって声に、助けにいかないのもお前ぐらいのもんだと思うけどねー俺は」
昼休み。小太郎は、広に朝の出来事を話した。
しかしそんな声がすれば、学校中の噂になっているはず。それがないということは、
小太郎しかその声は聞かなかったということだ。
「それはどうでもいいの。仕方ないだろ、おばけかもしれないと思ったんだから。うーん・・・そうかあ。ありがと、ひろ」
「いや、別にいいけどさ。お前、大丈夫か?最近変だぞ」
広にそう言われて、小太郎はまさか神様とお話してます、その上守られてます、などと言えるはずもなく。
「あ、あはははは・・・まあほら、最近家に住み着いたでっかいウサギが、ね。はちゃめちゃなものだから。
その上そいつがフクロウとお友達で」
嘘は言っていない。小太郎は自分にそう言い聞かせた。
「そうかー、ニンジンいっぱい必要だな。頑張れよー」
広は別のクラスメイトに声をかけられ、グラウンドに遊びに出て行った。
「おーい、小太」
小声で声がした。とても聞き覚えのある声だったせいか、つい小太郎は普通に返事をした。
「なんだよ、しらは・・・や!?」
「こらこら〜、大きい声を出したらばれちゃうでしょー。小太郎、でかいウサギとはよく言ってくれるね」
そう。
その声の正体は、ウサギに変化した白迅だった。
足元に見える白い毛玉に向かって、小太郎は小声で言った。
「何でここにいるんだよ!!そりゃ、今は昼休みで教室にはほとんど人はいないけど・・・」
「だから、場所移してよ〜。僕もその声の話、詳しく聞きたいんだよねー」
そう言うと、白迅は鞄に潜り込んだ。どうやら、ばれないように鞄ごと運べということらしい。
小太郎はため息をついて、鞄を抱えて外に出た。