拾陸


「・・・で?どうやってここまで来たんだよ」
「もっちろん、空間を跳んで来たんだよー。うまいこと人目につかない場所に着いたから、そこからウサギになって」
校舎の裏に人影のない事を確認して、白迅がウサギのまま話を始めた。
「僕はさ、妙な気配を感じたから小太が心配になって来たんだけど。そしたら、小太が変な話してるもんだから、つい」
本当は無事を確認したらすぐ帰るつもりだったのだと言う。
「妙な、気配?」
小太郎が繰り返して尋ねると、白迅が頷いた。
「うん、まあ。それがホントに妙でね、闇・・・ではないみたいなんだけど。何だか変な感じだったからさ」
白迅の話を聞いてとりあえず納得した小太郎は、朝聞いた助けを求める声の話をした。
「・・・うーん、もしかしたら僕の感じた気配も、その声の正体と同じものかもしれない。小太、それってどの辺?」
「え?・・・家からちょっと行った、三叉路の辺り・・・かな」
小太郎がそう答えると、白迅はぽんっと人型に戻って言った。
「うん、じゃあそれは僕が調べてみるよ。何があるのか見てくる程度でよければね。・・・あ、はいコレ、日和から」
白迅が懐から出した日和の札を小太郎が受け取ると、白迅はひらひらと手を振った。
「じゃーね、小太郎!!僕そこちょっと見てくるから、学校終わったら真っ直ぐ家に帰るんだよー」
しゅっと姿を消した白迅に、小太郎はしばらくぽかんと口を開けたままだったが、
すぐに受け取った札を鞄に入れて、校舎に入っていった。

その日の帰り、小太郎はまた声を聞いた。
聞こえるごとにはっきりとしてくるそれは、確かに小太郎にしか聞こえていないようだった。
「すれ違った人たちは、別に聞こえてないみたいだったんだよな・・・」
ほとんど沈みかけた陽を見て、そろそろ夜狩の時間だなどと思っていると、自分がすっかりこの状況に慣れていることに気付く。
「・・・ま、こんなことくらいで動じてちゃ、いけないのかも・・・」
白迅に言われたとおり、真っ直ぐ家に向かった。

「ただい・・・まっ!?」
「あら、お帰り小太郎」
「おかえりっ、小太!」
「遅かったじゃねえか」
玄関を開けて出迎えに来た面々を見て、小太郎は目を疑った。
清江・・・は、小太郎の母だから何の問題もない。
白迅も、すっかり川崎家に溶け込んでいるので問題は無い。
確実に、一人増えている。
「や、夜狩!?何でっ!?」
「あ?悪いのか?」
ちゃっかり出迎えメンバーに仲間入りしている夜狩に、小太郎がぽかんとしていると、清江が言った。
「白迅くんのお友達でしょ?何かねえ、2人で話してたからね、あがっていってって言ったのよ」
お父さん今日は泊まりで仕事だって、と言いながら清江が野菜を器に盛り付ける。
白迅の知り合いということは、夜狩も神なのだということにきちんと気付いているのだろうか。小太郎は心配になった。
「か、母さん・・・?夜狩がどんな存在か、わかって言ってる・・・の?」
「あらあら、小太郎ってば。白迅くんのお友達ってことは、おんなじでしょ?」
から揚げ食べる?なんて言い出した清江に、小太郎は頭痛がするのを感じてこめかみをぐりぐり揉んだ。
分かっていてやっているのかと思うとさらに頭痛が酷くなる気がして、
小太郎は考えるのをやめて夕食の出来上がっている食卓についた。