拾漆


「・・・で?なんで夜狩がここにいるの?」
自分の分のから揚げを小皿にキープしながら、小太郎が尋ねる。
「うん?ほら、夜狩がちょうど空飛んでたから、ちょっと話そうと思ってー」
鮭の塩焼きを綺麗にほぐしながら白迅が言う。
「・・・よく言うぜ。こいつ、俺を力まで使って止めたんだぞ。呼び止められるのも命がけだな」
しょうゆを片手に、夜狩が言った。
「と、いうか」
「?」
小太郎が変なところで言葉を切ったため、2人が不思議そうに動きを止める。
「何で普通にウチでゴハン食べてるのさ!!」
「・・・まあ、ほら、僕は別にいいじゃん?」
「俺だって腹くらい減るぞ?」
逆に2人に言い返されて、小太郎はうっと言葉に詰まる。
「・・・ま、まあ。いいけど・・・あーこら!!白迅、マヨネーズ使ったら真ん中に置いてって言ってるのに!!」
「あ、ごめ〜ん」
真剣な話をしようにも、これではどうしようもない。
そう結論が出たため、とりあえず食べるときは食べることに専念することにした。
「おかわりもしたかったらしてね」
清江の言葉に、3人は同時に笑顔で頷いた。

「さて、おなかもいっぱいになったことだし」
「いつもの通り、作戦会議だね〜」
「・・・いつしたんだよ、作戦会議なんてもん」
3人はまた小太郎の部屋で、テーブルを囲んで話を始めた。
「・・・小太郎、帰りもその声聞いたって言ったよね」
白迅の問いかけに、小太郎が頷く。
「帰り?帰りは、日和の札も持ってただろ?」
「う、うん・・・でも、聞いた。すごくはっきりしてたよ」
疑う夜狩に絶対に同じ声だったと小太郎が言うと、白迅が口を開いた。
「僕、三叉路の先見てきたんだけど〜、2つには別に変なところはなかったよ。でも、真ん中の道の行き止まりに池があってね。
埋め立てしてたよ。それくらいしか変なものはなかったなあ・・・。小太郎、なんか知らない?その池のこと」
白迅の問いに、小太郎は首をかしげて唸る。
「うーん・・・そこには小学校の時1回行ったきりだしなあ・・・。よく覚えてないよ」
「だがな、はっきりしたことがあるぜ」
「何!?」
夜狩がそう言うと、小太郎と白迅が同時に身を乗り出した。
「・・・相手は神か、すげえ強大な闇だってこった」
そう言うと夜狩はテーブルの上の小ぶりなまんじゅうを口に放り込んだ。
「あ、そうかー。なるほど」
「何がなるほどなんだよ、白迅」
納得した顔をしている白迅に、よく分からなかった小太郎が不満そうな声を上げる。
「だからさ、日和の札は対邪悪な存在用なんだよ。その守りを超えて小太郎に影響を及ぼすことが出来るのは、対象になってない神か、
もしくはお札の力を凌駕するほどの強力な闇ってことなんだよ」
「あ、そうか。・・・って、だったら神様なんじゃないの?闇・・・だっけ、そんなのは僕に助けてなんて、言わないよきっと」
小太郎がそう言うと、夜狩が厳しい顔をした。
「そうとも限らねえよ。もしかしたら、お前をおびき出すための罠かもしれねえだろうが。油断すんな、がきんちょが」
「ご、ごめん」
しゅんとした小太郎を横からかっさらうように、白迅が引き寄せた。
「やーかーりー。小太をいじめないでよっ」
「お前こそ甘やかしてんじゃねえっての」
「あーもー!!白迅、夜狩は間違ったこと言ってないよ。僕が悪かったよ、今のは。庇ってくれてありがと」
だから落ち着いて、と小太郎がまた口論になりかけた二人をなだめる。
「・・・小太郎、キミがそう思うなら僕はきっと、そこにいるのは神だと思うんだ。だから、確かめに行こうよ!!」
「・・・・・・へ?」
一度落ち着いたと思ったら急にそんなことを言い出す白迅に、小太郎は間抜けな声を出した。
「だからー、もしもカミサマが助けを求めてるんだったら、一大事でしょ。それにもしうまくいけば、僕らに協力してくれるかも。
大丈夫、僕もついてくから!!」
「ちょ、ちょっと白迅、夜狩の話聞いてたのか!?」
にこにことしながら言う白迅に小太郎が慌てると、白迅とは反対側に座っている夜狩から声がかかった。
「・・・そん時は俺も行く。陽が落ちてからにしろよ」
「夜狩!?お前、さっきは!!」
勢いよく振り返って小太郎が言うと、夜狩はおなじみのにやりという笑みを浮かべた。
「なに、大丈夫だろ。俺が行くんだからよ」
その自信はどこから。小太郎はため息をついて、すっかりその気になっている2柱の神を交互に見た。
「・・・わかったよ、行くよ。その代わり、しっかり守ってよね!!」
やけになったように叫ぶ小太郎に、二人はそれぞれ返事代わりに笑みを返した。