拾玖


「・・・この先の池を埋め立てているということでしたね」
「そーなんだよね・・・でも、それと小太の聞いた声と、どう関係があるんだろ」
日和と白迅が難しい顔をしてこの先にあるものを考える。
「そういえば、僕にしか聞こえてないみたいだったんだよ、その声」
そこに小太郎がそう言うと、白迅がはっとした。
「小太にしか?・・・・・・それは、いよいよ本格的にカミサマかも」
「え?どういうことだよ」
白迅が真剣な顔で言った言葉の意味がわからず、小太郎が聞き返す。
「・・・小太郎、貴方の気は特に神と波長が合うのです。もし、その神が弱っているなら・・・
波長のあう貴方にしか声が聞こえなくても不思議はありません」
日和の説明では、神は力があれば、自然にほとんどの人間と波長を合わせることが出来るが、力が足りない、
弱っている神はそれができないのだという。
「つまり、僕になら呼びかけられるけれど、他の人にまで合わせてるほど力の余裕がないってことなんですか?」
小太郎が言うと、日和は頷いた。
「そーなんだよね。僕らだって人型をとるのに力を使ってる。でも弱って、
力が足りなくなれば僕らだって、人型ではいられないんだよ」
それどころか、力がなければ消滅の危険もあるのだという。
「ま、待ってよ。じゃあ、闇かもしれないっていう話はどう説明するの?」
小太郎がはっとすると、白迅は不敵に笑った。
「大丈夫。闇ってね、小太郎だけに、とか器用なこと出来ないんだ。小太郎は力があるから、ちょっと強く影響されるかも知れないけど」
そこで言葉を切り、にこっと笑って小太郎を安心させるような口調で言う。
「もし闇なら、そこを歩く人にも聞こえちゃうはずだよ〜。・・・まあ、例外もいないことはないから、油断は禁物だけど」
だから、ほぼ確実にそこに待っているのは神なのだと白迅は言った。
「な、なるほど・・・。うん、じゃあ行こう!!」
歩調を少し速めた小太郎に付き従うように、白迅と日和も足を速めた。

「・・・そろそろ、交代ですね。それでは失礼しますよ、小太郎」
池に着く手前で、日和に変化があった。陽が落ちる。
と同時に、日和から光が溢れた。
「・・・・・・やっと交代か。待たせたな」
次の瞬間にはもう、夜狩が姿を現した。
「夜狩、よかった。ギリギリで間に合ったね」
「夜狩、遅いよ。僕たちもうつくトコだよ?」
迎える小太郎に、文句を言う白迅。それぞれの反応をどう思ったのか、夜狩はにやりと笑って歩き出した。
「あーそうかよ。じゃあ行くぞ」
「ちょっと、待ってよ!!もうだいぶ暗いんだから、そんなに急いだら・・・うわっ」
転びかける小太郎に、夜狩が面白そうに笑った。
「ははは、俺は夜目がきくほうだ。俺が何なのか、忘れたか?」
お前の方こそ気をつけろ、と言ってまた歩き出した夜狩に、小太郎は恥ずかしそうに乾いた笑いを漏らした。
「あ、あははは・・・。よしっ、行くよー白迅!!」
「え?あ、待ってよ小太〜」
照れ隠しに駆け出した小太郎を追って、白迅も駆け出した。