「あ、清江さん、僕運びますよー食器」
「あらあら、神様に迷惑かけられないわよー」
「・・・って、何で!!母さんっ!?」
「何よ小太郎、アンタも食器くらい運びなさい」
「そうよ小太郎、アンタも現実を認めなさい」
小太郎の母、清江の口マネをしながら白迅が言うと、玄関に立ち尽くす小太郎はがっくりと肩を落とした。
「母さん〜・・・なんでそう、簡単に受け入れちゃうんだよ・・・」
次々料理が並ぶ食卓。いつもと違うのは、一人分多いこと。
そして、でかい図体をしたウサギが一匹、食器を持ってせわしなく動き回っていること。
「いいじゃない、神様だってんだからそれで。あ、白迅くんピーマン食べられる?」
「もちろん、ピーマンだけじゃなく肉もちゃんと食べられます〜。僕、好き嫌いないから」
「ウサギのクセに」
「何だよ、小太は僕に人参だけ食べてろっていうの!?そんなの、味気ない食卓だよ!?」
普通ウサギは人参だよ、と呟きながらやっと家の中に入った小太郎に、白迅がついてくる。
「やあなんだい小太〜、納得いかないって顔だね?」
「当たり前だ!」
「いいじゃないか小太郎。滅多にないぞ、こんなことは」
夕刊を広げながら小太郎の父が言えば、白迅がぱっと笑顔になる。
「さっすがお父さんはわかってくれてるぞ、小太!」
「ははは・・・普通は、滅多にどころか絶対にないことなんだけどなあ〜・・・」
言いながら階段を上る小太郎についてくる白迅に、くるりと笑顔で振り返って小太郎は言った。
「白迅。僕、着替えたいんだけど」
「おっと、こりゃ失礼」
大人しく退散した白迅に、小太郎は深くため息をついた。

「やー、清江さんのご飯は絶品だね、小太!!毎日あんな美味しいもの食べてるなんて、小太郎は幸せ者だね〜」
「あーそうだね。うん、確かにそうだ。だから、僕はお願いなんてないから」
「うっ!そうきたか・・・。大丈夫、そのうち欲のないキミにもきっとお願いしたいことが出来るはずだよ!
どんな些細なことでもおまかせだよ〜」
食事も終えて、小太郎の部屋で白迅と小太郎は向かい合っていた。
一人部屋なので少し狭い部屋の中、白迅にいつもの自分の定位置であるベッドを譲り、小太郎は学習机の椅子を使う。
「そんなこと言われても・・・」
「うん、まあ気長に待つことにするけどね。ここで暮らす許可ももらったから、いつまでも待っちゃう」
にこにこと笑う白迅に、小太郎はため息をついた。
「はあ、何でこんなことになったんだろ」
「それは、キミが・・・『最初に』」
「? 僕が、何?」
白迅の呟きを聞き逃した小太郎が聞き返すが、白迅ははぐらかした。
「えーっと、まあ、最初に僕にお願いを言いにきたからってことで」
「え、僕って最初なの?今までは?」
「うん、今まで誰も半年間通い続けることが出来なかったんだよねー。まったく、根性ないったら」
やれやれ、と肩をすくめて白迅が言った。
「最高記録で大体・・・3ヶ月くらいかな?そのくらいになるとさ、飽きちゃうみたいなんだよね」
「そっか。まあ僕の場合、頼まれてたからっていうのもあるのかも」
「責任感だねー。やるなあ、小太」
ストレートに褒められて、恥ずかしくなった小太郎が鼻の頭を掻いていると、白迅が唐突に切り出した。
「さて小太郎、本題だ。僕と『契約』してみない?」
「け、契約・・・?」
小太郎は戸惑ったが、白迅はどんどん話を進めていく。
「そ、契約ー。キミが危なくなったら僕が守ってあげる。そういう契約だよー。これまでも僕、
そうやって人間を守ってきたから、その方がいいかなーと」
「ま、待ってよ!!お前、僕の『お願い』叶えたら帰るんだろ!?なんでそんな・・・」
「・・・仕方ないなあ〜。じゃあちょっとだけ説明しようか。キミは、すっごーく危ないカンジがするから、僕心配でさ〜。
だから僕が一肌脱いじゃおうかなーなんて」
好き勝手言われて、小太郎も反論する。
「危なくて悪かったな!!・・・いいよ、白迅に守ってもらわなくたって、僕は大丈夫だよ」
頑なな態度の小太郎に、白迅も表情を変える。
「あらら、僕これでも一応カミサマなんだけど。カミサマの言うこと、ちょっとは信じてみようよ〜。
結構、真面目に言ってるんだよ?キミは特別。あいつらに・・・あ、いや」
「あいつら?」
小太郎が怪訝そうな顔をするが、白迅は顔の前で両手をぶんぶん振って笑った。
「あーっと、ははははは!!・・・わかった、こうしよう。お試しチャンス、1回ってことで」
「お試しチャンス?」
少々言葉が怪しいが、とりあえずそこには突っ込まずに小太郎が聞き返す。
「うん、小太郎が危ない目に遭いそうになったら、僕を呼んでよ。絶対に助けてあげる。とりあえず試しに、ね。
危なくなったら、呼ぶんだよ。必ず行ってあげるから。いいね?」
「う、うん・・・」
ふざけていたかと思えば急に真面目になる白迅に、色々言いたいこともあったがとりあえず小太郎は頷いた。
満足げに頷いた白迅は、次の瞬間には布団を被っていた。
「さっ、明日も学校でしょー。寝るよ小太ー」
「あっ!お前、なに僕のベッドで寝てるんだよ!僕はどこで寝るんだよー!!」
「僕の隣が空いてるよ、小太っ」
「・・・出てけっ!」
結局ベッドから追い出された白迅が布団を敷いて床に寝ることになって、消灯。