弐拾


3人は問題の池に着いた。今まで動いていたのであろう重機がぽつぽつと見える。
「・・・ここかあ・・・懐かしいな。あ、そういえばここ、確か石碑があったんだよね。
・・・石碑というよりは、お墓みたいな感じではあるんだけど」
「?」
懐かしむ小太郎の言葉に、二人が不思議そうな顔をする。
「小さい石があるんだよ。丸いやつ。なんだっけ、『魚塚』・・・だったかな?」
「うおづか?」
白迅が繰り返す。
「うん、魚塚。確か、ここの池の神様の伝説が、・・・!?」
「神様、ってお前言ったか今!!」
小太郎が何気なく言った一言に、夜狩が目を丸くする。
神様。
「なーんだあ・・・じゃあ、カミサマじゃん。小太ってば、うっかりしすぎー」
「・・・俺は帰るぞ」
拍子抜けした顔をしている白迅。それに対して帰ろうとする夜狩の着物の袖を、小太郎はさっと捕まえた。
「おい、小太郎・・・」
「いいじゃないか。折角ここまで来たんだから。なんなら、一緒に散歩すると思ってさ」
にこっと笑顔で言われてしまっては、夜狩としては断りにくい。
「・・・・・・さっさと済ませて、帰るぞ」
まだ帰らないから放せと、袖を取り返して夜狩は歩き出した。

「確か、この辺に・・・」
駆け出して石碑を見つけ出した小太郎の傍に、2人が近寄る。
「これか?やけに小せえな」
「でも、確かにいるね。・・・弱ってるけど」
白迅が呟くと同時に、小ぶりな丸い石は淡い光を放ち始めた。
「・・・あ、なんか、声が・・・」
小太郎が耳に手を添える。2人も目を閉じて、集中した。
「・・・わたしを助けて・・・お願いです」
小さく聞こえた声。それに答えて、小太郎が言った。
「あなたは、神様ですか?」
すると、今までとは声の様子が違う返答が返ってきた。
「・・・ああ、いるのね?近くに!確かに存在を感じる、声が聞こえる・・・!!わたしは昇。
お願い、ここから運んでください!」
昇、と名乗った神に、夜狩が目を開いた。
「・・・のぼり?もしかして、あんた昇姫か?」
夜狩の声に反応するように、声が返ってきた。
「ええ、皆にはそう呼ばれていました。あなたは・・・もしかして、夜狩?」
相手も夜狩を知っているらしい。そこに白迅が口を挟んだ。
「・・・ねえ、とにかくそのおヒメサマ、運んであげない?ここじゃあ・・・地の力が弱すぎてロクに話も出来ないよ」
「え、でも・・・本当にいいのかな、場所移しちゃっても」
小太郎が戸惑っていると、昇姫から声がかかった。
「いいのです、お願いします」
それじゃあ、と小太郎が小さな石を持ち上げる。するとふっと白い光は消え、声も聞こえなくなった。
「夜狩〜、このヒトと知り合いなの?」
「ああ。昔、近くにいたんだよ。偶然だけどな」
白迅が尋ねると、夜狩が面倒そうに言った。
「とっ、とにかく、運んであげよう。・・・白迅、どこに行けばいいの?」
石を持っておろおろする小太郎に、白迅が笑った。
「ここ以外なら、どこでもいいよ。・・・いいや、小太郎ん家に帰っちゃおう。確か家の庭にちっちゃい池、あったよね?」
戸惑いながらも小太郎が頷くと、白迅が言った。
「じゃあ、そこにまず落ち着いてもらおう。多分・・・水が無いと、まずいかな?」
どうやら、白迅も昇姫の正体に心当たりがあるらしい。
とりあえず家に戻ることにして、3人は歩き出した。