弐拾壱


「・・・さ、ちょっとここに置いてあげてよ」
家に帰り、庭の隅にある池の傍に移動して、3人は小さな石を見つめた。
また石から淡い光が放たれ、今度はさらに光が強くなった。
「・・・・・・本当に、ありがとう。おかげで人の姿をとれるまでに力が満たされました」
光が消えるころには、昇姫の姿が現れた。髪の長い、美しい女性の姿。
「やっぱりあんたか。俺のことも、覚えてるみたいだったな」
夜狩が言うと、昇姫はふわっと笑った。
「ええ。ずいぶん昔ですが、近くにいましたものね。日和さんもお元気?」
「あ〜の〜。・・・昔話もいいんだけどさー、どうして小太を呼んでたのか、教えてくれない?」
気まずそうに、白迅が昔を懐かしむ二人の会話を中断すると、昇姫ははっと気付いた顔をして、小太郎に向き直った。
「あなたが、わたしの声を聞いてくれた人・・・。ありがとう、あなたのおかげで元気になりました」
にこっと笑う昇姫に、小太郎は真っ赤になって首を振った。
「い、いえそんな・・・ええと、どうして弱っちゃってたんですか?」
「・・・あの、埋め立て工事のせい。わたしは魚を率いているから、水場が少なくなっていくにつれて、
わたしも弱ってしまったのです」
俯いて話す昇姫だが、次の瞬間には顔を上げて笑った。
「でも、あなたのおかげで。・・・あなたがわたしの声を聞いてくれたおかげで、助かったの。ありがとう!」
「元気になって、よかったです。・・・でも、昇姫さんは・・・これからどうするんですか?」
尋ねる小太郎に、昇姫は言った。
「昇姫、と呼んでくれていいのよ。みんなそう呼んでいるし」
そこで言葉を切り、ふわりと笑う。
「わたしもあなたとは気楽に話したい。・・・そうね・・・あなたが迷惑でなければ、
ここで休ませてほしいのですけれど・・・。あ、そういえばお名前、まだ聞いていないから、教えて?」
その問いに、小太郎は少し顔を赤くして答えた。
「僕は小太郎です。・・・もちろん、迷惑なんかじゃないですよ。うちでよければゆっくり休んでください、昇姫。
・・・あ、ちょっと、鯉がいるけど・・・いいですか?」
池の中をゆらゆらと泳ぐ鯉を見て、小太郎が気まずそうにそういうと、昇姫は笑った。
「ええ、わたし魚がいる池、好きです」
「あ、僕は白迅。はじめまして昇姫。・・・って言っても、僕のほうはキミのこと、ちょっと風の噂で聞いてて知ってるんだけど〜」
そんな二人のほんわかする会話に割り込んで、白迅が言う。
「よろしく、白迅。わたしもあなたは知ってます。結構、有名なのよ?あなた」
「やあ照れるなあ〜。僕ってそんなに女神サマ方の視線釘付け?あははは」
「・・・・・・悪名高いだけだろ、バカウサギ」
今まで黙っていた夜狩が急に口を開くと、白迅がむっとした。
「悪名高さならお前のほうが上だろ、アホフクロウ」
「あ〜もう!!ケンカはやめろってば!!」
二人の間に火花が見える。そんな気がして小太郎は仲裁を諦め、苦笑しながら昇姫を振り返った。
「すみません・・・いつもこんな感じですけど、本当にうちでいいんですか?」
すると昇姫は楽しそうに笑った。
「もちろん。楽しそうね、これから」
にこりと笑う昇姫に、このままだと、家が神様でいっぱいになりそうだと小太郎はぼんやり思った。
だが賑やかなのもまあいいかと思いなおして、
放っておいたら言い合いが始まってしまった二人の仲裁を試みることにした。