弐拾参


「ここ・・・稲荷神社なのか」
狛犬ではなく狐の姿を見つけて、小太郎は呟いた。
さらにもう一つ内側にある小さめの鳥居をくぐろうとして、小太郎ははっと気がついた。
「僕だけで行くのって、まずいかな・・・?」
もしも闇の類だったらまずいかもしれない。そこで小太郎は手前で立ち止まったまま、声に出して呼ぶ。
「白迅!!」
静寂が訪れる。
「・・・って、すぐには来れないのかな?」
「あ〜、ごめんごめん。まさかこんな遠くにいるとは思わなくてさ〜」
「うわ、白迅!」
呟いたそのすぐ後に後ろに現れた白迅に、小太郎は驚いた。
「小太、どうしたの?こんなところにいるし、僕を呼んだわりには切羽詰ってないみたいだし〜」
「・・・それがさ・・・」
小太郎は道を間違えて偶然この神社を見つけ、鳥居の上に何かがいたのが見えたことを話した。
「そっか。それで、小太はもしかしたらカミサマ?とか思ったわけなんだね」
「うん。でもさ、夜狩がこの間『油断するな』って言ってたから、一応来てもらおうと思ったんだよ」
「なるほどね。しかし小太はえらいなあ〜!!ちゃーんと覚えてたんだね、夜狩のおバカが言ったこと」
頭を撫でられながら、小太郎は苦笑した。どうして夜狩のこととなるとこうなのか。
やはりウサギと梟では相性が悪いのだろうか。しかし日和とは仲がよいらしいのだが。
「し、白迅。頭ぐしゃぐしゃになるよっ」
「あ、ごめ〜ん。・・・さ、じゃあ早速入ろうか」
ぱっと手を止めて小太郎の髪を簡単に整え、さっさと入っていこうとする白迅に、小太郎が慌てた。
「え、ちょっと白迅!?大丈夫なのかそんなにぱっと行っちゃって!」
すると白迅は足を止め、くるりと振り返って笑った。
「だ〜いじょうぶ〜!!ちゃんと小太は僕が守ってあげるから。ね!」
「し、白迅が〜?大丈夫なのか、本当に」
小太郎がじと〜っと疑いの眼差しで白迅を見つめる。
「何言ってるんだよ〜!!大丈夫だよ、いざとなったら・・・」
「いざとなったら?」
言葉を繰り返す小太郎に、白迅は拳を握って言った。
「逃げる!!」
「いばるな!!」
すかーんと小気味よい音を立てて白迅の頭に何かが命中した。
先程放たれた声も、小太郎のものでなければ白迅のものであるはずもない。
からん、と落ちたそれは、一本歯の高下駄。
「・・・ったー!!痛いじゃないか!!何するんだよ〜!!」
白迅が声の主に文句を言いながら涙目で振り返る。
「うるさい!!何が『逃げる!!』だ!!」
「・・・・・・下駄?」
小太郎は拾い上げた下駄をまじまじと眺めた後、白迅の見上げる方向を見上げた。
大きな社の上には狩衣のような着物を着た、やはり神なのであろう人物がいた。
「誰なんだ?あ、赤い珠・・・!!」
一つに束ねた髪の根元に刺さっているかんざしに、神の証である赤い珠がついているのを見つけ、小太郎は思わず呟いた。
「ちょっとちょっと!!それはないんじゃないの!!いきなり下駄投げつけるなんてさ!」
びしっと人差し指を突き出して白迅が言うと、その神は言った。
「オイラは八魂、狐の神だ!!忘れたとは言わせないぞ、白迅!!」
言うや否や、もう片方の下駄を投げつけてきた八魂に、白迅がむっとしながらそれを避けた。
「・・・僕に2回目なんかきくとは思わないでほしいよね〜」
からんと転がった下駄を、また小太郎が拾い上げた。
「・・・というか、物を投げないように注意しろよ・・・」
「あ、お前っ!!卑怯だぞ、オイラの大事な下駄を!!」
下駄を拾った小太郎を指差して八魂が言った。
「・・・・・・じゃあ、投げるなよ」
呆れてため息をつきながら、小太郎は呟いた。