弐拾陸


『・・・れで・・・これで、やっと終わる・・・』
聞き覚えのある声。
「白迅・・・?」
『だけどさっ・・・、本当にお前はそれでいいのか!?オイラは・・・!』
『だめだっ!!お前が・・・』
「八魂に・・・、これは、誰?」
声はするが、姿は見えない。桜の散る光景ばかりが目の前に広がる。
『待て!!お前が死んだところで、何も変わらねえ・・・っ!!繰り返されるぞ!!』
『お前たちの運命を変えられないのなら、こんな力いらない!!・・・僕で終わりにするんだ!』
「夜狩、と・・・これが、もしかして以前の僕・・・?」
そう思った時、急に場面が切り替わり、見えたのは。
『・・・我のせいか・・・お前を巻き込んだ我のせいか・・・!!』
「唐紅さんの声・・・?」
『だからぁ、やめておきなさいって言ったじゃない。こうなることはわかっていたはずよね?』
「え?・・・誰?」
倒れる青年の姿と、周りを囲む見慣れた神たちの姿。見知らぬ姿もあったが、視界がぼやけてきてしっかり見ることが出来なかった。

「・・・我は以前のお前を神の世界に巻き込んだ」
「以前の僕は・・・自分から死んだんですか」
記憶を見終わった小太郎は、唐紅と向き合って聞いた。
「・・・・・・ああ。我はお前を守りきれなかったのだ。最後の最後に・・・」
目を苦しげに細め、伏せた唐紅だが、次の瞬間には真っ直ぐに小太郎を見つめた。
「それ故、今度は同じ轍を踏まぬよう、こうして力に引き寄せられるのを待っていた」
唐紅の言葉から、以前は唐紅が白迅のように、前の力の持ち主に色々教えていたのだろうと小太郎は思った。
「だから、僕と契約をしたいっていうことなんですね」
「そうだ。お前を守護するために、契約は必要だ。我は契約せねば力を出せぬ」
唐紅は頷いた。
「分かりました。・・・契約してください」
小太郎が承諾すると、唐紅はまた頷いて、契約印を描き始めた。
赤い光が宙に現れる。
描きあがった契約印は、すっと小太郎に吸い込まれるように消えた。
「・・・終わった。もう動いても大丈夫だ」
「これからよろしくお願いします、唐紅さん!」
にこっと笑った小太郎に、唐紅は頷いた。
「・・・って、そういえば何でここにいるんだっけ・・・」
きょろきょろと辺りを見回す。
「・・・あっ!!そうだっ、八魂と白迅が戦っちゃってたんだった!!」
神社の惨劇に今更気付いて、小太郎はばっと隣に佇む唐紅を振り返った。
「? 何だ?」
「唐紅さん!!あ、あの二人を止めないと!!」
止めてください、と小太郎が言うと、唐紅は首を横に振った。
「・・・調伏は得意ではない。我に出来るのは、一時の夢を見せることのみ」
「・・・・・・それって、どういうことなんですか?」
唐紅の言葉の意味が取れずに、小太郎が聞き返すと、唐紅は言った。
「僅かの間、現を離れて夢へ誘う」
「ええと、つまり・・・夢を見せるんですか?」
小太郎が言うと、唐紅は頷いた。
「それでも、あの二人が戦わずに済ませられるならやってください!お願いします!!」
「・・・・・・お前がそれで良いなら、我は従おう」
隠れていなさい、と言って唐紅は小太郎をその場に留め、自分は一歩踏み出した。
「・・・夢に堕ちよ。眠るがいい」
ふわり、と。
小太郎には唐紅の言葉とともに、朱や黄の楓の葉が舞うのが見えた気がした。