弐拾捌


走る。走る。
小太郎は、真っ暗な闇の中をひたすら走っていた。
「白迅!!夜狩!!」
呼んでも呼んでも、来ない助けを、小太郎は必死に呼び続ける。
「八魂っ!!・・・唐紅さん!!」
その時、闇が唐突に口を開け、白い光が漏れる。
そこに見えた影は。
「―――誰・・・っ!?」
見覚えのない影。
微かに笑ったような空気の揺れを感じたかと思うと、急に視界がぼやけた。

「・・・太、小太!!小太郎ってば〜っ!!」
「うわあっ!」
がばっと、呼びかける声に驚いて体を起こすと、がつんという鈍い音とともに頭に激しい痛み。
「痛ったー!!・・・・・・小太郎っ!!せっかく起こしたのに何するんだよ〜!」
「痛たたたた・・・。ごめん、白迅。変な夢見たもんだから、びっくりしちゃってさ」
額を押さえてうずくまる白迅に謝りながら、自分も額を押さえて小太郎はベッドに腰掛けた。
「・・・変な夢?」
「うん。僕は白迅に助けてもらったときみたいに、真っ暗な闇の中にいて。逃げてるんだけど、呼んでも呼んでも誰も来てくれないんだ。
でも、唐紅さんの名前を呼んだ途端、闇が割れて、白い光の中に誰かが・・・」
小太郎が忘れないうちにと一気に話した内容に、白迅が首を傾げる。
「誰か?からさんを呼んだんだから、からさんが来てくれたんじゃないの?」
「それが、背格好というか、影が唐紅さんじゃなかったんだよ」
唐紅さんよりもっと背は低かったような気もする、と小太郎が言うと、白迅は言った。
「うーん、それは、新たな協力者の登場を意味するのかも?」
なんてねー、と白迅はごまかしたが、一瞬見せた眼の輝きが真剣なものだったのを小太郎は見逃さなかった。
「・・・・・・白迅。もしかして、僕の力・・・になんか関係あるとかじゃないよね?」
「え?やっだなあ小太郎!!僕だってそんなに詳しくは知らないんだから、そんな〜」
「予知夢なら、以前の者もよく見ていた。強大な力故のものなのか」
「からさん!?」
「唐紅さん!?」
空間転移で突然現れた唐紅に、白迅と小太郎は同時に驚きの声を漏らす。
「・・・・・・呼ばれたような気がした。故に参ったのだが・・・。どうやら我の気のせいであったか」
「呼ばれたような気が?」
小太郎が聞き返すと、唐紅は頷いた。
「からさん、小太郎は夢の中では呼んだって言ってたけど?」
「・・・そうか。お前の力は強い、故に夢であっても影響されたのやも知れぬ」
唐紅の紅い眼にじっと見つめられ、小太郎は不思議な感覚に襲われたような気がした。
「・・・・・・闇に襲われる夢、か。良い夢ではないことは確かだが・・・」
「え?唐紅さん聞いてたんですか、夢の内容」
小太郎の問いかけに、白迅が答えた。
「からさんは他人が体験したことを読み取る力があるんだよね〜」
「え!」
ということは、今までも見られていたのかと、小太郎が赤面すると、唐紅が微かに苦笑した。
「意識して読み取ろうとせぬ限り読めぬ。そう身構えなくとも良い」
「からさんにじっと見つめられたと思ったら、大体読み取られてるって感じかな〜」
唐紅の話では、夢の内容など本人が忘れやすいことや、言葉での説明ではわかりにくいことを理解したいときに使うのだという。
「からさんは、以前の力の所有者の予知夢も読み取って正確に把握してたよね」
白迅がそう言うと、唐紅は頷いた。
「そうだ。本人が忘れてしまったことも、我が読み取れば鮮明に視える」
それから、小太郎の額にそっと触れた。
「・・・ずいぶん勢いよく激突していたようだ。痛むか」
「それも見られちゃったんですか・・・。まだ少し痛いけど、大丈夫です」
白迅とぶつかったときのことを言われ、小太郎が苦笑する。
「・・・・・・じっとしていなさい」
「え?」
唐紅は小太郎の額に触れた手を離さず、そのままぐっと押さえた。
戸惑いながらも小太郎が身動きせずにじっとしていると、じわりと温かさを感じた。
唐紅の指の間から、淡い光が漏れた。
「これで良いだろう。少し瘤になりかけていたが、もう大丈夫だ」
「あ、ありがとうございます」
どうやらさっきの淡い光は治癒術だったらしい。小太郎が礼を述べると、白迅が自分の額をさすった。
「あっれ〜?小太、コブになるほどぶつけた?僕は何ともないけどなあ〜」
「お前は昔から石頭であった。少しぶつけたくらいでは、痣にもならぬだろう?」
「からさん、それはキツイよ〜」
唐紅の言葉に白迅が苦笑すると、小太郎も笑った。