弐拾玖


「あ!!僕学校に行かないと!!唐紅さん、わざわざありがとうございました!!」
「いや・・・」
挨拶もそこそこに小太郎がバタバタと階下に降りていく足音が消えてから、白迅は口を開いた。
「・・・からさん、どー思う?」
「夢の話か。・・・我ではないが、どうやら敵でもないらしい影。心当たりは、お前もあるであろう。白迅」
腕を組んだ唐紅に、白迅がさらに答える。
「まあね〜。あのヒトかなあ、くらいはね。・・・それよりからさん、あんまり小太郎にさ、
色々教えないでくれると助かるなあ〜、僕」
「・・・・・・以前の我らは、少々知識を与えすぎたということか?あの事はそのような些細なことが原因とは、
我には思えぬが」
「からさんもそう言うのか〜。他のヒトたちにも同じようなコト言われちゃってさ。
・・・それでも、僕は今の方針を変えたくないんだよね・・・」
その言葉に、ちらりと横目で唐紅が白迅を見た。
「『力』を発現させずに、このまま時が過ぎるまで守り通す。・・・そのようなことが、本当に出来ると?」
「僕なら、出来るよ。・・・からさんは優しすぎるんだよね。見た目とは反対にさ」
以前の力の所有者の傍にいたのは、唐紅だった。
それ自体が過ちだったと言いたげな口調に、唐紅が目を伏せる。
「お前とて、他人の事は言えまい。・・・我は、小太郎は今までの『力』を持った者たちとは違う。そう感じるのだ」
「どうしてさ。あんなにそっくりなんだよ?見た目もそうだけど、性格も。
僕は、繰り返す危険性の方が高いと思うけどね」
白迅がため息混じりに言う口調は、決して普段のふざけた口調ではなく、真面目な響きがあった。
「似ているからこそ。我は、小太郎は大丈夫だと感じるのだ。確かに似ているが、小太郎は芯が強い。
意思の強さは今までの誰よりも勝っているだろう」
「・・・・・・なら、いいけどね・・・。わかったよ。でも、とりあえずは今まで通りだよ?
いきなり色々教えたら、それこそ小太が混乱しちゃうよ〜」
普段のおどけた調子で白迅が言うと、唐紅も微かに笑った。
「・・・分かっている」

「小太郎!早くしろよ!!」
「うん、分かってる!!いいよ、ひろは先に行ってても」
休み時間も残り少ないというのに、まだもたもたと着替えていた小太郎は、
広の声にそう返して着替えを続けた。
「そうか?うん、じゃあ先行ってるからな!!早く来いよ!!」
「・・・全く、どうしてこう、ぼーっとしちゃうのかな」
ふとした瞬間に止まりそうになる手を必死で動かす。
いつの間にか更衣室には小太郎一人になっていた。それに気づいて、慌てて制服をたたむ。
「大変だ、あと3分しかない!!走っていかないと・・・」
ポケットに日和から貰った札を入れて、小太郎は教室を出た。
「な・・・何で、こんなのってありかよ!!」
確かに教室を出たはずだったのだが、辺りは真っ暗な闇。
初めて闇に飲み込まれたとき、そして今朝方見た夢と全く同じだった。