参拾


「どうして、日和さんの札も持ってる・・・あ!!」
そういえば、新しい札を貰いに行くのを忘れていた。小太郎は気づいた。
札には期限がある。
札に込められた力が全て消費されてしまうと、効力がなくなってしまうということは、
以前白迅から聞いていたはずだった。
細かな紋様が所々切れ、その効果が薄れている事を示していた。
「どうしよう、もう効果が無くなっちゃったんだ!!」
辺りをきょろきょろと見回すが、もちろん何もない。
「・・・くそ、こうなったらめちゃくちゃに走ってやる!!」
不安に感じていても仕方がない。小太郎は気持ちを奮い立たせて、走り出した。

「そうだ、来てくれるかもしれない・・・一応、呼んでみないと」
どれだけ走っただろうか。何にもぶつからない、広々とした闇の中、小太郎は自分を守る神たちを思い出した。
「白迅!!」
何も起こらない。やはり、あの夢の通りなのか。ならば。
「唐紅さん!!」
唐紅の名前を呼んだ途端に、誰かが来てくれたはずだ。そう考えて、小太郎は唐紅を呼んだ。
「・・・・・・・・・って、誰も来ないじゃないかー!!」
叫びながらも、なお走る。すると、声が聞こえた。
「・・・唐紅を呼ぶなんて、唐紅のお友達かしら?どうしたの、迷子?」
声は前から聞こえた。不思議な響きだが、何故か小太郎は安堵した。
「どこに、どこにいるんですか!」
「アナタこそドコにいるのよ。・・・・・・ま、もしかして、この闇の中から?仕方ないわねぇ、ちょおっと待ってね」
そう声がしたかと思うと、闇が裂けて白い光が漏れた。
が、小太郎は全力で走っていたので、止まれずにその裂け目から飛び出した。
「うわっ!!」
「んまあっ、急に飛び出したら危ないわよ!!」
ぽすっと小太郎がぶつかったのは。
「ええと・・・誰ですか?」
女・・・なのか。
「アタシ?アタシは香仙。そうねぇ、唐紅の古ーいお友達って、トコかしら?」
きらびやかな服装ではあるが、その声は紛れもなく男であった。

小太郎が出たのは、校舎の裏。今は授業中のため、誰もいない場所だった。
「ええと、香仙さんは・・・」
「ちょおっと待った。その前に、この闇、どうにかしちゃいましょ」
そう言って片目を瞑ると、唐紅の友達だという香仙と名乗った神は、小太郎を後ろに庇って立った。
「さぁて、闇ちゃん。・・・アタシの香りに酔っちゃいなさい?」
そう言うと、香仙は持っていた扇子を広げ、ふわりと扇いだ。
香仙が動くたびに、頭の飾りについている赤い珠が揺れるのを小太郎は見た。
「わ、いい香り・・・」
鼻先を花の香りが掠めた。と思うと、闇が急速に小さくなっていき、ついには姿を消した。
「さて、これで少しは大人しくしてくれるわねぇ。・・・で、アナタは?って、闇に狙われてるんだもの、
あのチカラを持った子なのよねぇ」
くるりと小太郎を振り返って一人で納得している香仙に、小太郎が声をかけた。
「あ、あの・・・僕は小太郎です。それで、香仙さんは・・・女の人?・・・ですか?」
しどろもどろに、しかし単刀直入に聞いた小太郎に、香仙は楽しそうに笑った。
「あら、おほほほほ!!そうねぇ、アタシは女じゃないわ。
かといって、男だなんて言われたら気分が良くないのよ。おわかりね?」
つまり、オカマだということらしい。
「わ、わかりました」
「素直な子は好きよ。ま、美人のオカマは罪じゃないのよってことで、勘弁して頂戴ね」
そう言ってまた片目を瞑った香仙に、小太郎は苦笑した。