参拾参


「・・・白迅。お前、僕が呼んだの聞こえなかったのか?」
帰って部屋に入るなりそう言う小太郎に、白迅が首を傾げた。
「え?小太郎、呼んだの?・・・・・・まさか!!危ない目に遭って僕を呼んだの!?」
がしっと肩をつかまれ、小太郎は目を丸くするが、頷いた。
「う、うん。闇に飲み込まれちゃって。でも来てくれなかったから、聞こえなかったのかと思って」
「・・・・・・聞こえなかったよ〜・・・。そういう種類の闇なのかもしれないね、ソレ。小太郎、よかった〜、無事で」
ほーっと息をつく白迅に苦笑しながら、小太郎は香仙に会って契約した事を話した。
「あ、香仙に助けてもらったのか〜!!懐かしいなあ、僕あのヒトと結構仲良しなんだよ〜」
「白迅は結構友好関係広いんだな」
小太郎の言葉に、白迅が勢いよく頷いた。
「そりゃあね!よっぽど相性悪くない限り、大体仲良しになりたいと思うよ」
にこにこしてそう言ってから少し間をおいて、こうも言った。
「・・・僕みたいな考えの神は、珍しいらしいけど」
「?」
小太郎が首を傾げると、白迅は顔の前でぶんぶん手を振った。
「あ、いや気にしないでよ!!何でもないからさ〜」
それより、と人差し指を白迅が立てた。
「香仙はどう?中々あれでいていいヒトだから、あんまり怖がんないであげてね〜」
「あ、うん。いい人だよね。僕、早速助けてもらったから、怖がったりなんてしないよ」
小太郎は白迅の言葉ににこっと笑って答え、今日の出来事を話した。
「なるほどねー。やっぱ、今日の夢ってのは予知夢だったのかな」
「うん。今思うと香仙さんに似てた気がするし、あの影」
「そうかあ〜。・・・・・・やっぱり、力が強くなって来てるってこと、かな」
「え?・・・力?」
小太郎が聞き返すと、白迅は今気づいたというようにハッとしたそぶりを見せた。
「え!?僕、口に出してた!?」
「う、うん。力がどうとか」
「は、ははは・・・気にしないでね、小太郎」
「・・・・・・そう言われても・・・。白迅、お前実は黙ってるの、かなり向いてないんじゃない?」
小太郎に突っ込まれ、うっと白迅が言葉に詰まる。
「・・・自分でもそう思うよ。うん」
はあっと大きく息を吐いて、白迅は頷いた。

「・・・キミの力は、ホントは強い力だ。けど、今は眠ってる状態、みたいな話はしたっけ?」
「うん・・・。確か『今は表面には現れていないけど、確かに力がある』って」
夜狩も交えて3人で話をしたときのことだろう。
白迅はそれに頷いて、さらに続けた。
「小太郎の力は、僕たちにとって害にも益にもなり得るんだよ。
どちらの方向に力が現れるかは、僕たちにもわからない」
ある時は破滅へ、ある時は希望へ。小太郎の力は変化するのだと、白迅は言った。
「でも、これだけは確かだよ。・・・僕たちは、キミに破滅の力を発現させたくない。
それで辛い思いをするのは誰でもない、キミ・・・だから」
だから、守るのだと。
「・・・いいよ、白迅。もう。お前が悪い奴じゃないってこと、僕は知ってるから」
だからいい加減その情けない顔をやめろと、小太郎は苦笑した。
「え〜?またぁ?僕、そんなに情けない顔してる?」
会って間もない頃にも、こんな会話をした。
「うん、また。・・・話したくないなら無理に話すなよ。僕だって、無理には聞かないから」
小太郎のその言葉に、白迅は安堵したような、泣きたいような複雑な表情で笑った。