参拾伍


「・・・皆、いるか」
全員がそろった頃、唐紅が閉じていた目をゆっくり開いた。
「・・・・・・皆も・・・小太郎以外は、聞いた事があろう。追放された者の話を」
空気がざわつく。特に反応が強かったのは、白迅と日和。
「遙か以前にも、我らは集っていた。その時、力の所有者を共に守った者がほとんどであろう」
ほとんどの者が頷いたが、昇姫が頷かなかったところを見ると、以前昇姫はいなかったらしい。
「その時、我らと相対し、追放された者・・・」
唐紅は言葉を切り、息を吐く。それから、すっと鋭く息を吸い込んで、言った。
「今、我らに敵対しているのは・・・そやつだ」
「待ってよ、からさん。それって、もしかして・・・」
真剣な顔で、白迅が言う。
「牙血・・・のことですか?本当に?」
日和がその後を継いで言った名を知る神が、どよめいた。
「待てよっ、アイツは、オイラたちが・・・!!」
八魂はわけが分からないといった様子で、声を上げる。
「そうよ、八魂。アタシたちが、確かに封じたのよ。そのことは、唐紅・・・
最後の枷を施した、アナタが一番よく知ってるはずよね?」
いつになく真剣な口調の香仙に、小太郎は驚いた。
皆が皆、いつもの明るく楽しい雰囲気を消している。普段穏やかな日和でさえ、纏う雰囲気は険しいもの。
そこに事態の深刻さが現れている気がして、小太郎は口を挟む事が出来なかった。
そっと皆を見回すと、向かいにいた白迅と、目が合った。
相変わらず真剣な顔をしていたが、ふっと表情を柔らかく崩した。口が、音を出さずに動く。
大丈夫だよ。
「しら・・・」
「みんな、何深刻になってるのさ〜!前にもやったことを、もう一回やるだけだよ?
牙血なんて、もう一回封じちゃえばいいハナシでしょ!」
呼びかけようとした声は、白迅の明るい声にかき消された。
「白迅・・・」
日和が、信じられないといった目で白迅を見る。
「だいじょーぶ。日和は心配性だね〜。からさんも、そんな深刻な声で話してないで、
大丈夫って笑い飛ばすくらいしてみせてよ」
にっと笑って、皆を見回す。
「八魂だって、普段はぎゃーぎゃー騒ぐくせに、何深刻な顔してるのさ。香仙も、昇姫も、いつも通りにね!!
・・・こんなことで相手のペースにはまってちゃ、駄目だよ〜?」
ね、と言ってウインクした白迅に、皆がふっと表情を崩した。
「白迅・・・」
先程と同じ日和の呟きにも、苦笑と呆れが混ざり。
「白迅・・・お前と言う奴は・・・」
唐紅が僅かに唇の端を上げ。
「うるさいぞっ、ウサ公!!オイラはぎゃーぎゃーなんて言わないっ!!」
八魂が大声を張り上げ。
「もお、白迅ってば、折角アタシが真剣になってたのに。滅多に見られるモンじゃないわよぉ?」
香仙も苦笑しながらも楽しそうだ。
「そうね。わたしも、頑張ります。小太郎のためですからね、恩返ししなくちゃ」
昇姫も、花が咲いたような愛らしい笑顔を見せた。
「小太郎!!ね、大丈夫だよ。僕たちバラバラだけど、キミを守るってコトだけは一緒だから!!」
そんな白迅に、小太郎も笑顔を見せた。
「うん。・・・みんな、信じてるから!」
その言葉に、その場にいた全員が頷いた。