参拾捌


「おーっす、小太郎!!」
ばしっ、と背中に衝撃。普通に歩いていた小太郎は、そんなことをする人物は一人しかいないとばかりに、ばっと振り向いた。
「うっ!?・・・・・・ひろ〜〜っ!!」
「おおっ!怒ったのか小太郎!?悪い悪い、まさかそんなに痛いとは思わなくてよ」
「悪い悪い、じゃないよ!!一瞬息が出来なくなったんだからね!!」
「だから、ごめんって」
片目を瞑って両手を合わせる仕草に小太郎は、よろしい、と偉そうに言って続けた。
「今日は早いね」
「まあな。そんな日もあるってことだ。広様に、やって出来ないことはない!!早起きもやればできる!!なんてな〜」
「あはは」
そういえば、昨日は夢の騒ぎのせいで急に学校を休んでしまった。
何も、聞かないのだろうか。
「ひろ、昨日は・・・」
「昨日は楽しかったよな〜!!お前、サッカー急にうまくなってたからさー!!大勝利だったよな!!」
「・・・・・・は?」
何の話だ?小太郎は耳を疑った。
「ごめん、ひろ、何の話?」
「は?忘れたってのかよ!!お前、体育の授業の時、ばしばしシュート決めまくってたじゃねえか!」
広の言うところによれば、昨日小太郎は学校にきちんと来ていたばかりか、体育のサッカーで大活躍したらしい。
しかし小太郎には、そんな覚えは無い。
「まさか・・・・・・・・・」
そんなことが出来る人物を、小太郎は知っている。
その時、不思議な気配を感じた。姿は見えないが、声が聞こえる。
「アタシよ、ア・タ・シ。びっくりした?」
「香仙さん・・・!」
小声で呟くと、相手にはそれが聞こえているようだった。
「小太郎ちゃんが困ってるかと思って。みんなに暗示をかけておいたわ。これで出席日数も安泰よ?」
「・・・・・・・・・ありがとうございます」
一応、礼を述べておく。無断欠席にならずにすんだのだから。
サッカーで大活躍は、やりすぎだとは思ったが。
「いーえ、どういたしまして。じゃ、アタシはこれで。遅刻しないようにするのよ?」
そう言うと、香仙の気配は消えた。
「・・・お前、今一人でぶつぶつ呟いてなかったか?」
広の不思議そうな顔に、小太郎は慌てて言い訳する。
「いやっ、してないよ!!広の方こそ、疲れてるから幻聴聞いたんだよ!!」
「そうか?・・・そうかもな、昨日のサッカーの疲れが抜けてねえのかも」
昨日体育があってよかった。
小太郎はそう思って、広を急かしながら学校へ向かった。