四拾


ススキの中を、掻き分けて小太郎は真っ直ぐ進んでゆく。
「本当に、いるのかなあ・・・?僕を助けてくれる人なんて」
ぶつぶつ言いながら、尚もススキの中を進んでいく。
暫く歩くと、ぽっかりと穴が開いたような、丈の低い草の場所に出た。
「あ、あれ?・・・ここは一体・・・」
「・・・君が、今の時代の力の持ち主の子?」
そう声をかけられ、小太郎が姿を探して見回すと、ススキの中に一人の青年が姿を現した。
「あ、あなたは・・・誰ですか?」
「・・・僕は、夏緒。・・・・・・君の前の、力の持ち主だよ」
半透明に透き通った身体は、ススキを揺らすことも無く、するりと通り抜けて小太郎の目の前に歩み出た。

「えっ、あの、でも・・・ということは、あなたは・・・」
「ああ、僕は神様じゃないよ。そうだな・・・別に幽霊ってわけでもないし。思念体、かな?」
にこりと笑う顔に既視感を感じ、小太郎は首を傾げる。
「なつお・・・さんは、僕の前の力の持ち主って・・・」
「うん、そうだよ。君に会いたかったんだ。そしたら、あの人が力を貸してくれた」
無明のことだろう。夏緒は尚も続ける。
「いきなり神様たちに巻き込まれて、大変だっただろうけど、皆悪いひとたちじゃないから。・・・大変なのはこれから」
「これから・・・」
小太郎が繰り返すと、夏緒は頷いた。
「うん。牙血が、また目覚めただろ?だから、君を助けたいと思ったんだ」
「あ、その、牙血っていう神様は・・・一度白迅たちが・・・」
「そうなんだ、僕の時に。だから、僕も知ってるんだけど・・・牙血が、迷える闇を統べているのは知ってるよね?」
小太郎がそうだったかと首を捻ると、夏緒は苦笑した。
「まったく、唐紅は・・・肝心なところで言葉が足りないんだからなあ・・・。とにかく、そうなんだよ。
あいつは、そこかしこに潜んでいる闇を見つけては、自分の下に置いてる。命令を聞くようにしてるんだよ」
「・・・・・・・・・」
黙り込んでしまった小太郎に、夏緒は真剣な顔で言った。
「そして、そんな闇をも従える牙血に対するには、君は不完全なんだ。・・・どうしてか分かる?」
「・・・分かりません・・・そもそも、僕に本当に力なんてものがあるのかも、分からないんです、僕」
すると、夏緒は小太郎の目線に合わせるように屈みこんで、にこりと笑った。
「・・・僕がいるから。君の魂の欠片の僕が、ここに存在してしまっているからだよ。
だから、本来の力を出せない君の魂は、不完全なんだ」
一拍置いて、続ける。
「力は、君に確かに宿ってる。気付いていないだけだよ、小太郎。
多分、まだその時期じゃないんだと思う。時が来れば・・・君は・・・」
話の途中なのだが、夏緒の体はさっきまでよりも透き通って来ているような気がする。
「夏緒さん!?」
「・・・ごめん。今日はここまでが限界みたいだ。・・・まだ、伝えたいことがあるのに・・・」
また、会えたらいいね。
そう言い残して、夏緒の姿は完全に見えなくなった。
それと同時に、目の前が真っ白になる。
「うわっ・・・!!」
強い風が吹いた。