四拾参


家に帰ると、心配していたというより怒っていた清江にこってり絞られて、ぐったりしながら小太郎たちは部屋に入った。
「・・・つ、疲れた・・・」
ベッドに倒れこむ。
「清江さん・・・僕にまで怒らなくたっていいのに〜・・・」
同じく清江に叱られた白迅も、小太郎の隣に倒れこむ。
「・・・小太郎。・・・・・・こんな時に何なんだけど・・・もう、小太郎を巻き込むのは避けられないよ」
「え?」
倒れこんでいた体を起こして、白迅の方に向き直る。
白迅も、起き上がり小太郎に向き直った。
「本当は、あんまり深く巻き込みたくなかった。キミ、とっても良い子だし、普通だし。
でも・・・牙血が復活してるなら、話は別」
一拍置いて、真剣な目で白迅は言った。
「全てを話すよ、小太郎。・・・僕が知ってるコト」

「え、ちょっと、待ってよ白迅・・・!いいの、あんなに必死に隠してたのに・・・」
「いいんだよ。というか、話さなくちゃいけない。もう・・・隠したままじゃ、キミを守れないよ」
神妙な面持ちの白迅に、小太郎も真剣な眼差しを返す。
「どこから話せばいいのかなあ・・・。僕もコトバで説明したことって、あんまり無いから、
分かりにくいかもしれないんだけどね」
にこりと笑った白迅の顔がいつものままで、小太郎はほっとしたように表情を緩めた。
「いいよ、まだ寝るまでは時間いっぱいあるから、ゆっくり話してよ」
「うん。・・・僕らはね、キミの魂を護る、守護者。キミの魂は、特別なんだよ」
何度も聞いたその『特別』という言葉に、小太郎は頷く。
「そして、守護者の条件は、一つ。・・・人に近しい場所にいた、ということ」
「人に、近しい場所・・・」
小太郎が繰り返すと、白迅は肯定するように首を縦に振った。
「つまり・・・それはね、僕らの世界・・・『神界』では、いけないコトなんだよ」
「え?」
「うーん・・・まず、神界からかな。僕らが元いた世界、『神界』は、神の世界。
沢山、神がいるんだ。その神々のてっぺんに、立ってるヒトが・・・僕らを人界に落とした」
落とした、という言葉に、小太郎は僅かに表情を曇らせた。
それは、人の世界が、咎人の檻だと言っているのと同じでは無いのか。
「ごめん、嫌な言い方だ。・・・でもね、僕らはずっとそう言ってきたんだよ。
罪を犯した者は、『落とされる』んだ。この世界に、ね。・・・他の言い方を、僕らは知らない」
人がそんなに良いなら、人の世界にいるようにと。
「日和も、昇姫も、からさんも、八魂も。・・・みんなみんな、小太郎が会ったヒトたちは、そういうヒトたち。
人の肩を持てば、この世界に来るんだ。そしてずっと、魂の守護者としてココにいる。今までも、これからも」
息を大きく吐いて、大きく吸う。
「・・・・・・戻れないんだ。みんな。でもね、多分・・・僕だけじゃない、みんな後悔してないよ。
人が好きなんだ、この世界が大好き。だから、戻れなくたっていいんだ」
ふっと、白迅が口を噤む。
「まあ、な・・・そりゃあ、後悔してたって、始まらねえからよ」
しんとしたそこへ、響いた声。
「や、夜狩・・・!!」
窓の外から現れたのは、黒い影。