四拾伍


「いいかい小太郎、危なくなったらすぐ呼ぶんだよ、できるだけ僕を呼ぶんだよ!!
いや、別に八魂とか呼んでもいいんだけど」
「もー、白迅!!わかった、わかったよ!!昨日から何回も聞いたよ!!」
朝。
小太郎は制服を身に纏い鞄を持って靴を履いた、すぐにでも学校に行ける状態であるにもかかわらず、
玄関で足止めをくらっていた。
もちろん、この兎の神のせいである。
「日和さんの札もこうなった以上あんまりあてにはできないんだろ!!もう、覚えちゃったよ!!」
早く学校に行かなければならないのに、口うるさい兎のせいで学校に行けない、
と、小太郎は急いたように足踏みする。
「う、うん・・・あはは、そんなに言った?僕。えっと、とにかく!誰を呼んでもいいんだけど」
「出来るだけ白迅、だろ。それも、何回も聞いた。さっきも聞いた!いってきます!!」
言い捨ててついに家を飛び出した小太郎の背中に、更に声がかかる。
「行ってらっしゃーい、小太郎!ホント、気をつけてね〜!!」
全く、過保護なんだからなあ、と小太郎は口の中で呟いて、速度を上げた。

その日の帰り道、小太郎は八魂と歩いていた。
「小太郎と一緒!楽しいなっ」
「あ、あははは・・・八魂、もう勝手に学校来ちゃ駄目だよ・・・」
小太郎が帰り際、ふっと校庭の傍の木に目をやると、見覚えのある着物の裾が覗いていたのだ。
慌てて駆け寄ると、案の定八魂が木の陰でしゃがんでいたのを発見した。
広を何とかごまかし、八魂を連れ、慌てて学校を出て今に至る。
「わかった、気をつける!・・・でも何で行っちゃだめなんだ?」
「そ、それは・・・」
本当に分からないといった様子で尋ねられ、小太郎は言葉に詰まる。
「えーと・・・」
「目立つのが嫌なんだよね〜、小太郎は」
「うん、そう。それ・・・・・・って!!」
聞き覚えのある声に自然に返事をし、それからぎょっとして声のした方を勢いよく振り向いた。
「白迅!!」
「やあ、小太郎〜。来ちゃった」
「白迅っ!!何でお前がいるんだよっ!!」
来ちゃった、とわざとらしく茶目っ気たっぷりに笑ってみせる白迅に、反対側にいた八魂が叫ぶ。
「えー、チビッコには関係ないことじゃん。僕は小太郎の様子を見に来たんだし〜。チビッコこそ何でいるのさ」
「オイラだって小太郎の様子を見に来たんだ!」
そのまま言い合いを始める二人に、小太郎が困って口を開きかけると、また別の声がした。
「二人とも、小太郎が困っているでしょう?喧嘩はお止めなさい」
「あ、ごめん〜」
「ごめんな・・・って、日和!?」
「日和さん!?」
白い梟が目の前に降り立ったかと思うと、それはすぐに人の形をとり、日和が現れた。
「二人とも。守るべき人に迷惑をかけてどうするのです」
駄目ですよ、と静かな口調で言うと、二人はさっきまでの様子とは打って変わってしゅんとした。
「ごめんってば〜。それより、日和は何しに?」
「私も、小太郎の様子を窺いに来ただけですよ。元気そうで何よりです」
にこりと笑って言う日和に、小太郎も笑顔を返す。
「ありがとうございます、日和さん」
「あー、小太郎!!同じことしてるのに僕には何にも無かったじゃん〜!!」
「お前の様子の見方は目立つの!!」
今度は白迅と小太郎が言い合いを始めてしまい、八魂と日和は互いに見合い肩をすくめた。