「ふ〜、ここまでくれば大丈夫かな〜」
「・・・・・・って、何逃げてるんだよ!アレ、あのままでいいわけないだろ!!」
家の近くの公園まで来てやっと止まった白迅に、今まで口が開けなかった分小太郎は叫んだ。
「ん?ああアレね、大丈夫。多分、キミしか閉じ込める気ないというか、狙ってないから」
「だからって・・・!!」
「小太郎」
何か言おうとした小太郎を遮って、白迅が言う。
「カミサマにもね、得手不得手があるんだよ。僕は、あまり戦うのは好きじゃない。それにね、
逃げる方が得意だし楽なんだよね〜。すごかったでしょ?あれが僕の得意技だから」
「・・・・・・でも、全力で逃げるだけって、かっこ悪いよ」
いくら速いとはいえ、白迅がやったことといえば敵前逃亡、それも、全力疾走。
人にはありえない速さではあったが、これが能力だといわれると、多少落胆するのが人の心理。
「はははは!!いいじゃないか無事だったんだし。それともキミは、あのまま闇にぱっくりやられたかったの?」
からからと笑う白迅に、小太郎は口ごもる。
「それは・・・嫌だけどさ」
不満げな小太郎を見て、白迅はぽんと小太郎の肩に手を乗せた。
「わかった、小太!力をつけよう!」
「・・・は?」
自分より背の高い白迅を見上げる形で、小太郎は今聞いた言葉が信じられないといった様子で聞き返した。
「だから、力をつけよう!味方を増やすんだよ!生憎、僕は戦いが好きじゃないからね。
そういうのが得意な神に協力してもらうんだよ。そうしたら、あいつも退治できるし小太も安心!」
白迅がいうには、どんな些細なものにでも必ず神はいるのだという。
「そんなに高位の神さえ狙わなければ、結構いっぱいいると思うよ〜?この公園だけでも、沢山の存在を感じる。
例えば、この植木にもね」
白迅がすぐそばにあった植木に手を差し伸べると、白い光が飛び出した。
「あ〜・・・でも形をとるほどの力はないみたいだね〜。これだと神というより、精霊に近いね。
せめて、人型がとれるくらいの位にいるヤツに協力してもらおう」
「って、勝手に話を進めるなよ!第一、僕しか狙わないって・・・なんなんだよ!僕が、何だっていうんだよ!」
やっと思考がまとまってきたらしい小太郎が一気に問い詰める。すると、白迅は困ったように頭を掻いた。
「うーん・・・それはさ、ちょっと今はまずいよ。ごめんね小太郎。いつか、どうしても避けられなくなったら、話すから」
でも、と置いて、白迅は真剣な顔で言った。
「キミを僕が守らなければいけないのは確かだ。・・・それは、他の神も同じはずなんだ。だからきっと・・・
役目を背負った神はきっとどこかにいるはず。そのヒトたちを探せば、協力してくれるよ!!だから・・・」
「・・・・・・・・・わかったよ。わかったからさ、そんなに情けない顔するなよ、神様のくせに」
いつになく真剣な白迅の様子にふうっとため息をついて、それから小太郎は苦笑した。
全く、自分が何を口走っているのかわかっているのだろうか。分からないことだらけだが、
小太郎はとりあえず何も聞かずにおいた。
「う。・・・そんなに情けない顔してた?僕、これでも真面目に話してるんだけど」
白迅が顔を押さえる。
「もとからたれてる目が、ますますたれちゃいそうな顔してたよ」
「・・・・・・・・・帰ろうか、小太郎」
笑顔になった小太郎を見て、白迅もつられて笑った。

「さ、説明してもらおうか?」
小太郎はいつになく迫力のある態度で言った。
「・・・・・・こ、小太郎さん?どういうことでしょうか?」
前に座ってせんべいをかじっているのは白迅。
「決まってるだろ!あの真っ暗なの、なんだったんだよ!!第一、何で僕が狙われなきゃならないんだ!」
小太郎の部屋で、小太郎の怒声が響く。
あの後公園から帰ってきた小太郎は、部屋に入ったらすぐこの話を切り出そうと考えていた。
そう思えば、当然のように自分の横に座るでかいウサギも、我慢できるというものである。
「ちょっとちょっと〜。それは話せないって・・・」
「僕が白迅にとって何なのか、には触れなくていいよ。たださ・・・正体もわからないのにただ怖い思いをするのは、
嫌なんだよ」
真っ暗な空間を思い出したのか、声のトーンが下がる小太郎の様子に、白迅は大きくため息をついた。
「・・・仕方ないか〜。話せる範囲で話すよ。キミも、少しは知っておいたほうがいいかも知れないしね」
その前に、と白迅が人差し指を立てる。
「?」
「おせんべいもう一袋ない?」
「・・・食いすぎだ!!このバカウサギっ!!」
再び、小太郎の怒声が響いた。