伍拾壱


「日和さあ…なんで逃げようって言ったの?」
木に寄りかかり、白迅が空を見上げて言う。
まだ空色が大部分を占めているものの、そろそろ朱が濃くなってくるだろうことを感じる。
「おや、貴方らしくない言葉ですね。戦うつもりでしたか?」
その隣に立ち、にこりと笑うのは日和。
「う〜ん…そう言われると、あんまりその気はなかったけどさあ〜」
あはは、と苦笑して、今度は足下に目を落とす。
「皆があれだけ気合見せたんだから、僕も一丁やらなきゃいけないかな〜って思っただけ」
日和には白迅の表情を窺い知ることは出来ない。
「…僕、守りたいよ。今度は」
何を、誰を、とは言わずとも分かる。
「……そうですね。私もそれは同意見ですが…だからと言って貴方が無理をすることはないでしょう?」
「だってさあ〜…からさんとかもう、皆カッコよかったじゃーん?」
ぱっと顔を上げていうその表情は明るい。
「ちょっと、僕も小太にいいトコ見せとかないと!!ってね!!」
からからと笑う声に、日和は苦笑する。
「全く…貴方というひとは、どうして」
「ん?」
「いいえ。…まあ、どちらにしても、あの場を退いたのは正解でしょう?」
日和の言葉に、白迅は頷く。
「うん、そうだね〜。僕はあんまり戦いたくない、夜狩もいないじゃあ、攻撃力不足だもんね〜」
「その通りです。牙血は、今回事を構える気はなさそうでしたが…万が一ということもあります」
珍しくため息をついて、更に日和は続ける。
「…私では、守ることしか出来ません。今は」
「逆に夜狩じゃあ、守ることは出来ない。…もどかしいね、こういうとき」
苦笑して白迅が言うと、日和もつられるように苦笑する。
「ええ、本当に。自業自得だとは、分かっているのですが」
「どうしてあのひとたちは…こんな僕らにさ」
「白迅」
何かを言いかけた白迅を、日和が柔らかく制する。
「…何か、意味があるのです。おそらく、ですけれど」
ふわりと笑った日和に、白迅はぎこちない笑みを返した。