伍拾弐


「たっだいま〜…ってアレ?」
玄関から入った白迅の目に映ったのは、大量の履物。
川崎家は3人家族なので、そんなに玄関が狭くなるほど履物が出るはずはない。
「おっ、おかえりー」
そこへりんごジュースの缶を両手で大事そうに抱えた八魂が通った。
「た、ただい…ま?」
まさか全員、と思って履物を数える。一度数え終わってもう一度数える。
「…全員来てるんだ…うわあ、部屋狭そう〜」
僕入れないじゃーん、と文句を言いながら自分も家に入る。
「たっだいまー!!」
「遅ぇぞ」
「うるさいよアホフクロウ。さっきまで日和だったはずなのにっ」
「お前が寄り道してっからだろうがバカウサギ」
勢いよく戸を開けて居間に入ると、一番に口を開いたのは夜狩。
それにお馴染みの文句で返して、白迅は居間を見渡す。
「…うわあ〜…狭くない?小太」
「……言うなよ」
ため息交じり苦笑交じりで、小太郎が言う。
「はいはい、ともかく白迅もさっさと入って頂戴な。白迅待ちだったのよ?」
香仙がぱんぱんと手を叩きながら急かすのに怪訝そうな視線を投げながらも、白迅は後ろ手で戸を閉めた。
「…僕待ち?」
「はい、そうなんです」
昇姫がにこりと笑って肯定する。
「な、何で?」
何かあった?と誰にともなく聞きながら白迅が見回すと、黙って腕を組んでいた唐紅が口を開いた。
「今後について、少々」
「今後…ね」
聞いた白迅がすっと表情を引き締めるのを見て、唐紅は頷く。
「お前も考えたのではないか。このままでは後手に回ってばかりであろう」
「そうだね。だけど、僕らはずっとそうだった。だから今回も、問題ないと思った。違うの?」
二人のやり取りに口を挟む者はなく、再び唐紅が言った。
「だが、今回は勝手が違う」
「でも、危険だよ!あいつが何を考えてるのか分からない、僕だってこのままじゃ…結果は見えてるとは、思ってるよ」
守れないだろうと。
「そうだ。ゆえに、考えるのだろう。皆で」
はっと、白迅がいつの間にか俯いていた顔を上げる。
「皆…」
「…そうよ。誰も、アナタ一人に考えなさいなんて、言ってないじゃないの」
香仙が苦笑しながら口を開いた。
「俺は、頭使うのは苦手だけどな…日和なら色々考えられるだろうよ。だから話だけでも、聞きに来てんだろ」
夜狩がため息混じりに言う。
「…白迅。僕も、頑張るからさ」
小太郎が言うと、白迅は泣き笑いのような表情で頷いた。
「……うん。頑張ろうか、小太郎」