伍拾参


「…僕らは牙血の居所を知らない。だけど、牙血だって、僕ら…小太郎がどこにいるのか知らないはずなんだ」
気持ちも新たに、白迅がそう切り出す。
「そのようだ。知っていれば、とうにこの家には居られまい」
唐紅が頷く。
「たぶん、探してるの、かな…わからないけど。こうなったら僕らが先に、あいつを見つける」
「…出来るんでしょうか…」
不安げな昇姫に、白迅はにっと笑った。
「まあ出来る出来ないは別としてとりあえずやってみたらいいじゃん!僕も、色々吹っ切れちゃった」
「よく言うぜ。泣きそうな面してたくせによ」
「肝心なときにいないアホフクロウに言われたくないんですけどっ」
夜狩がからかうと白迅もすぐに切り返す。それを見た小太郎は、ふうっとため息をついた。
「…全くもう…二人とも!」
「おう」
「はいは〜い」
ふたりとも返事だけは良いのだ。
「小太郎は一人にならないように気をつけてね。日和の札も、どこまで効くかわからないから」
「わかった」
神妙に頷くと、白迅も満足そうに頷く。
「あとは僕らが頑張るしかないわけなんだけど…どうしようか?」
「どうしようか?って、どういうことなんだ?」
八魂がきょとんとして聞くと、白迅はへらっと情けなく笑った。
「……何か具体案があるわけじゃないからさあ〜」
「…どうすんだよー…」
聞いた八魂がかくんと肩を落とす。言った白迅は乾いた笑いを漏らした。
「あはは…か、考えてよ八魂。ねっ!」
「オイラにそういうこと言うなよっ!!」
「もう、ちょっと落ち着きなさいな?」
考えるのは苦手だと八魂が喚くのを香仙が宥めていると、黙っていた唐紅が口を開いた。
「…心当たりはある」
「…え?」
静かに放たれた一言に、皆の視線が唐紅に集まった。
「からさん、心当たりって…」
「…最後の…封印の場所だ」
聞き返した白迅が目を見開く。
「待てよ、あいつは俺たちの封印を破ったからああして動き回ってんだろうが。いつまでもあんなところにいるか?」
夜狩が驚いて口を挟むと、唐紅は腕を組み思案するように目を伏せた。
「幾重にも重ねた我らの封印は、そうたやすく破れるものではあるまい。おそらく、まだ何かあるはずだ」
本当に全て破られたのでなければ、と最後に付け足す唐紅の声はあくまで淡々としている。
「…行ってみる価値はある、のかしらね…」
香仙も考え込むように顎に手を添えながら言う。
「……小太郎。お前は」
唐紅が不意に顔を上げ、正面に居た小太郎を見据える。
「え、あの…僕?」
意見を求められているのか、と唐紅を見やると、僅かに頷いた。
「何を思った。何を感じた」
どういう意図で唐紅がそれを求めるのかは分からない。
自分に集まる皆の視線に戸惑いながらも、小太郎は口を開いた。
「…僕は…よくわからないけど、少しでも可能性があるなら、やってみないことには始まらないと思います」
真っ直ぐに唐紅を見つめて言う。
「……決まりだな」
にやりと笑って夜狩が言うと、皆どこか決意を秘めた瞳を見せた。
「するべき事は見えた。異論はあるまい」
唐紅が皆を見回す。
「焦ることない、ちゃんと備えができたら…」
行こう、と力強く言った白迅に、皆が頷いた。