伍拾伍


「ってことがあったんだ」
「へ〜え」
ばりぼり。
「それで後から気づいたんだけど、あのひと着物を着ていたみたいで…さっと消えたし…」
「うんうん」
ばりぼりばり。
「だから、あのひとも神様なんじゃないかって言ってるんだけど…真面目に聞けっ!!」
我慢の限界、とばかりに白迅から煎餅の袋を取り上げる。
「あ〜っ」
「あーっ、じゃないだろ!人が真面目に話してるのに!!」
「うん、だから、ちゃんと聞いてたじゃ〜ん」
「どこがだよ!」
白迅に取られないように煎餅の袋を後ろに隠しながら、小太郎が喚く。
「それだけ条件がそろってればきっとそのヒトも神様だよ〜。はい、コレで一件落着!」
おせんべい!と勢い良く差し出される白迅の手をべしっと叩く。
「もう今日はおしまい!…けど…気になるなあ、やっぱり…」
うーんと唸る小太郎に、白迅は苦笑した。
「…小太郎が会いたいと思うんだったら、きっとまた会えるよ」
「……何で?」
「ん?それは…小太だから、かなあ」
意味ありげに笑う白迅に、小太郎はますます首をかしげた。
「さっ、そういうことだから、もうソレはいいよね〜。僕はちょっとからさんトコ行ってくるから、誰かと一緒にいるんだよ」
ぽんぽんと頭を撫でられる。
「…何だか珍しいなあ」
「へ?何が〜?」
ぽつんと言った小太郎の言葉を耳聡く聞いて、小太郎の頭に手を置いたまま白迅がきょとんとする。
「ううん、白迅に頭撫でられるのが珍しいなあと思っただけ」
とかく撫でられがちな小太郎だが、主に夜狩や香仙、唐紅といった面々に撫でられることが多い。
夜狩曰く、「小太郎の頭は撫でやすい」ということらしいのだが。
「…そう?まあほら、そういう日もあるんじゃない?」
にっと笑った白迅に、小太郎も笑う。
「そうだな」
それにまたぽんぽんと頭を軽く撫で、白迅はすっと姿を消した。

「か〜らさ〜ん」
姿を現すなり、間の抜けた声を出すのは白迅。
「…何用だ」
閉じていた目を開いて、唐紅が答える。
すぐに応じたところを見ると、寝ていたわけではないらしい。
「別に何かあったわけじゃないんだけど〜」
「ならば何だ」
淡々とした口調にも慣れている白迅は、気にすることなくへらへら笑う。
「相変わらずだなあ〜からさんは」
「……お前は…」
何か言いかけた唐紅は、言葉を切ってそれきり黙ってしまう。
「…からさんならさ、何とかできるかなあと思って」
「…?」
何を、と聞くように視線を投げる。
「詳しいことは言えない。けど、ちょっと頭の隅にでも置いておいてよ。…きっと、何とかして欲しいんだ」
「…それでは成せるものも成せぬ」
そうだね、と白迅は笑う。
「いいんだ、ちょっと覚えていてもらうだけで。忘れないでよね」
言うだけ言って、じゃあね〜と姿を消した白迅に、唐紅はしばし虚空を見つめる。
「…お前は…」
再び口を開いた唐紅が続きを言うことは無かった。