伍拾陸


休日の朝。
「ただいまーっ!!」
明るい声が玄関に響く。
「…ん?」
小太郎のものではないそれに、白迅が首をかしげた。
「あ、来た来た!!」
するとその目の前を小太郎が嬉々として横切っていくので、白迅は声をかけた。
「小太、どうしたの?」
立ち止まった小太郎は笑顔で言った。
「帰ってきたんだ!」
「??」
ますます分からないといった様子で首を傾げる白迅には構わず、小太郎はぱたぱたと駆け、出迎える。
「ただいま、お兄ちゃん!」
「お帰り、由布」
肩より少し上に切りそろえられた髪を揺らしてぴょんと抱きついた妹に、小太郎は満面の笑みで答えた。

「ははあ〜…妹かあ」
ひとまず小太郎の部屋に避難した白迅は、聞き耳を立ててそう納得した。
「…そういえばずっと前言ってたなあ〜。入院してるけど妹がいるって」
すっかり忘れてた、と白迅は神妙に一人呟いた。
そこに階段を上がってくる足音。
「白迅。ここにいたんだ」
「あ、小太〜」
扉を開いて顔を見せたのは小太郎だった。
「何隠れてるんだよ。お前この家にいるんだから、顔くらい見せたって構わないだろ?」
「あ、そっか。そうだよね〜。つい隠れちゃった」
そういえばそうだ、と白迅は納得する。
つい何かの条件反射のように隠れてしまったが、この家の人間ならば隠れる必要はないのだ。
「うん、じゃあ小太郎の妹の顔も見たいし、一緒にいこうかな〜」
「…見たっておもしろいもんじゃないぞ」
「小太郎の妹なんだから可愛いんだろうね〜」
笑って言う白迅を、肘で小突く。
「何言ってるんだよ。普通だよ、普通!」
言いながら先立って階段を下りる小太郎の後に、白迅も続いた。