「・・・あの闇は、元は「神」だったんだ。時が経つにつれて、人の思念や呪いに自我を蝕まれた神は、
ああなるしかないんだ。僕らは白い光を放つ。でも、あれは黒いから、『闇』と呼ばれるようになったんだ」
いきなり話の真核に迫った白迅の話を、小太郎は真剣に聞いていた。
「それでも、力の強い者はあまり、ああはならないんだけど・・・小太郎にも見せたよね?
あの植木のみたいなのが、ああなっちゃうんだ」
「そうか・・・あの、白い光?」
公園で見た、植木から飛び出した白い光のことなのだろう。
「そう。あれが人の暗い気持ち、憎しみに染まってしまった姿だ。かなり大きな闇だったけど・・・あれはきっと、集合体だね」
目を閉じ、遠い時間に想いを馳せるような雰囲気を身に纏い、白迅は淡々と話す。
「僕も何度も見たけど、悲惨なものだよ。人の気持ちに同情しすぎちゃいけないんだ、僕たちは。
哀しみに暮れる人間に同調しすぎてしまってはいけないんだ。哀しみはやがて何かへの憎しみになる。
僕たちは元々不安定な存在だから、すぐにその気持ちは侵食してくる」
そして、闇になるのだという。
「・・・キミが狙われるのは、力が強いから。キミが特別だから、狙われるんだ。そして、キミが特別だからこそ、僕はキミを守る」
わかった?と聞かれて、小太郎は思わず頷いた。
「うん・・・言ってる事はわかったよ。でも、僕が特別?何でだよ、僕はどこにでもいる普通の中学生じゃないか」
「え?それは・・・ああ、そうか。小太郎は人間だからわかんないかもね。じゃあこれも説明しないといけないのか〜。
ううん、面倒だなあ〜。まいいか」
白迅は顎に手を当てて考えるような仕草をしてから、また口を開いた。
「全てのものはね、みんな『気』を持ってるんだ。気っていうのは・・・分かりやすく言っちゃうと力だね。
もやのようなカタチで見えることもあるんだけど、大体は感じるだけ。気は感じるもの。その感じられる気が・・・小太郎、
キミはとっても特別なんだ。キミの存在が特別なのは、その『気』のせいなんだ」
「『気』・・・?何だか、実感わかないよ。急に言われても」
「だろうね。でも、こればっかりは信じてもらうしかないよ。『気』は僕たちにもそうそう見えるものじゃないし。
・・・あ、小太郎。急で悪いんだけど、正規の契約を交わさないと」
思い出した、とぽんと手を打った白迅に、小太郎はため息をついた。
「・・・・・・わかったよ。もう。早くしてよね」
「はいはい」
すると白迅は立ち上がり、小太郎も立たせた。
「動かないでね〜」
そう言うと、すっと指を出して空中に円を描く。その軌跡にそって、赤い光が現れた。
その中に細かい紋様を描いていく。
「ん、こんなもんで完成かな。よっ!・・・と」
白迅が突き出すように手を動かすと、それは小太郎の体に吸い込まれるようにすうっと消えた。
「うわわっ!?」
「今ので契約は完了だよー。さっきのは契約印、僕らが契約するときに使う術だよ」
にこりと笑って言う白迅に、小太郎が微妙な表情を返した。
「・・・手慣れてるなあ・・・」
「うん、そりゃあ。僕何回も練習したもん。小太郎はさ、絶対僕の封印を破るって確信があったからね〜」
白迅の言葉に、小太郎が首を傾げた。
「それって・・・?」
「うん、キミの気は特別、さっきそう言ったよね?キミの気は、僕の封印を破るカギにもなってる。だから、
キミが僕のところに来たとき、ああこの子を僕が守るんだなあ〜って、ね」
何気なく言われた台詞に、小太郎は頷いてからはたと気がつく。
「・・・って、それって僕は最初から白迅と会う運命だったってこと!?」
「あはは、そういうことになるかも。でもホントはね、何も教えずに守るつもりだったんだ。
僕がなぜキミを守るのか、キミはどうして僕に会ったのか、全部、教えないで。キミは何も知らないまま、
勝手にキミを守って終わらせるつもりだった」
途中から真剣な顔になった白迅に、小太郎は呟くように聞いた。
「・・・じゃあ、何で・・・教えてくれたの?」
「小太郎があんまりちっちゃくて可愛いもんだからついつい〜」
「ふざけんなっ!!」
急にへれっと表情を崩した白迅の顔に、小太郎は力いっぱいクッションを投げつけた。