「2つで1つのものねえ・・・何のなぞなぞ?」
「母さん、なぞなぞでも何でもいいから、この近くにないの?」
清江に手がかりを求めたものの、清江は首を傾げるばかりだった。
「・・・2つで1つねえ・・・。・・・・・・ああ、そういえば」
「何か思い出した?清江さん!」
白迅が身を乗り出す。
「ここからはちょっと離れてるけどねえ、確か、通り3つ離れた神社が、ちょっと変わってるらしいんだよ。鳥居が、2つ立っているとかで」
「鳥居が、2つ?」
白迅と小太郎が声を合わせて言った。
「そう。向かい合うように2つね。それで、どっちから入るかでご利益が違うって、佐藤さんが言ってたけど」
「ありがとう、母さん!!」
「清江さん、お洗濯頑張って〜」
二人は同時に駆け出し、あっという間に家を飛び出して行ってしまった。
「あら・・・やだ、洗濯機もう止まってるじゃないの」
洗濯物を干さないと、と呟いて、清江は慌てて蓋を開けた。

「通り3つ離れた神社ねえ・・・小太、場所知ってる?」
白迅が隣を歩く小太郎に呼びかけると、小太郎は不敵に笑った。
「ふふふふふ。じゃーんっどうだ!僕、ちゃんと用意しておいたんだからね!」
ばっ、とポケットから取り出したのは、丁寧に折りたたまれた地図だった。
「おお〜っやるじゃん小太!さすが、僕のために!!」
「・・・なんで白迅のためなんだよ。僕は、自分のためにやってるんだからね。白迅じゃ、不安なんだもん」
いいながらがさがさと地図を広げる。横でいじけてぶつぶつ呟いている白迅を見事に無視して、地図に意識を集中する。
この町の地図だ。小太郎は目指すべき場所を指で追った。
「えっと、今ここだから・・・あ、あった、ここだ。神社のマークがついてる」
名前こそ書いていないものの、確かに神社を示す地図記号があった。
「よし、そこだね。その鳥居の神社でビンゴなら、僕の知り合いがいるはずだよ〜。・・・今ならね。暗くなる前につかないと、保障は出来ないけど」
「? 会える時間が決まってる神様なの?」
小太郎が首をかしげると、白迅は曖昧に笑った。
「あ〜・・・ははは。まあそんなところ。急ごうか、小太郎。遠くはないけど、万が一太陽が落ちちゃったら大変だ」
白迅が早足になったのに続いて、小太郎も少し急いで神社を目指した。

「・・・ここかあ。大きい鳥居だなあ・・・」
「小太、ぐずぐずしてられないよ。さ、入ろう」
大きな赤い鳥居を見上げる小太郎をせかして、白迅はさっさと鳥居をくぐって中に入る。その後を追って、小太郎も小走りで中へ踏み込んだ。
周りを鎮守の森に囲まれた薄暗い中に、二人の足音と木々のざわめきだけが響く。
中に入って見渡すと、確かに二人が入ってきた方とは逆の方向にも、鳥居が見えた。
「・・・さてと。ここの御神体は〜っと」
「わ、ちょ、ちょっと白迅!!勝手に開けたら・・・」
「いーのいーの、僕カミサマ」
小さな社を見つけるや否や扉に手をかけた白迅に、小太郎が慌てる。
「・・・おお、これこれ。やっぱりここにいたんだね、日和」
白迅が懐かしむような笑顔で両面が鏡面の鏡に話しかけると、光が溢れた。
「・・・・・・騒がしい上に無遠慮だと思えば、あなただったのですか、白迅。そこの人の子のほうが、よっぽど良識があるようですよ」
現れたのは、白を基調にした着物を纏い、長く真っ直ぐな金の髪を一つに括った、白い神。白迅は、日和と呼んでいた。
「いいじゃないか〜、昔馴染みの感動の再会なんだから。あ、小太。このヒト、僕の昔からの知り合いで〜、日和。
梟のカミサマなんだよ。日和、この子、小太郎。僕の封印を破ったんだよ〜」
「そうですか。小太郎・・・いい名ですね。私は日和。・・・契約が見える。白迅、貴方また・・・」
「ストーップ。・・・日和、僕が契約してるってことは、この子が何かも分かるはずだよ」
小太郎が呆気に取られているうちに、二人の会話はどんどん進んでいく。
「・・・そうですか、この子が・・・!!・・・ああ、小太郎。すみません、貴方を置き去りにして話をしてしまいましたね」
「あ、いえ・・・気にしないで下さい」
「あ〜小太郎、僕にはタメのくせにぃ〜」
「そんな小さいことでうるさいよ、白迅。・・・あの、日和さん・・・は、梟の神様って・・・」
「そんなに気を遣わないで、楽に話してくださいね。呼び方も、呼びやすいように呼んでくださって構いません。そう、私は梟の神。
とはいえ、梟だけではなく、大体の鳥は私に従ってくれます」
小太郎は日和を見上げる。穏やかで、柔らかな雰囲気を放つこの神が、多くの鳥たちを統べているとはとても思えないと思い、まじまじと見つめた。
すると、ふいに日和が手を持ち上げた。
「すみませんが、手を貸していただけますか?」
「小太郎。手、乗せてやって。日和は目が見えないんだよ。キミの気を覚えるために必要だから、ちょっと手貸してあげてよ」
白迅のフォローに、日和が笑顔を見せた。
「ありがとう、白迅。小太郎、少し協力してください。貴方の気をきちんと覚えておかなければ、貴方の姿がつかみにくいのです」
日和の説明では、その人物独特の気の波形を記憶することで、今目の前にいるのは誰なのか特定しているということであった。
「あ、そうだったんですか。じゃあ、はい」
小太郎が日和の手に自分の手を重ねると、日和は目を閉じ、集中しているようだった。
しばらく、静かな時が流れた。いつもはなにかと喋ってばかりの白迅も、この時ばかりは静かに立っていた。
「・・・ありがとう、もう結構ですよ。貴方の気は、やはりとても綺麗ですね」
「え?あ、ありがとう・・・ございます」
気が綺麗、とはどういうことなのかよくわからなかったが、ほめられたのは確かなようなので、小太郎は礼を述べて笑った。